陽徳郡温泉観光地区へ今年4回目の現地指導
陽徳郡温泉観光地区へ今年4回目の現地指導
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が、温泉開発に力を入れている。山岳地帯の多い北朝鮮は、韓国よりも温泉に恵まれており、近年、各地に温泉保養地を整備している。国民への福祉施設として活用するだけでなく、外貨稼ぎにも使いたいようだ。いわば「温泉統治」と言えよう。
正恩氏は最近、中部、平安南道で建設中の陽徳郡温泉観光地区を視察した。今年だけで4回目の視察だった。それだけ力を入れている証拠だ。
施設の詳しい内容は紹介されていないが、「朝鮮中央通信」が配信した写真を見ると、露天風呂、大規模なホテル、スキー場のようなものも見える。ゴルフ場や乗馬施設も計画されており、今年末までに完成予定だという。
朝鮮半島の半分以上の温泉が集まる北朝鮮
部下に厳しいことで知られる正恩氏は、温泉観光地区の仕上がりぶりを、珍しく手放しで褒めている。
「すべての建物が、見れば見るほど素晴らしい。短い期間に成果を挙げた」と、タバコを手に、湯船に腰掛けながら、こう語ったという。ただ、「ささいな不足点も許せない」とも付け加え、建物の最終仕上げや浴槽の消毒、管理方法まで詳細に指示したという。まるで温泉開発の専門家のようだ。
正恩氏は、多くの温泉やスパを抱えるスイスに留学している。そこでの経験も生かされているに違いない。
韓国で発行されている温泉ガイドによれば、現在、朝鮮半島に約60か所の温泉があり、そのうち40か所以上が北朝鮮に集中する。有名なのは北東部・咸鏡道に位置した朱乙温泉と、中西部・黄海道の達川温泉だ。朝鮮中央通信の報道によれば、陽徳郡温泉観光地区の湯質もなかなかのようだ。
高温なうえ、「美肌の湯」に欠かせないミネラルであるケイ素(シリカ)や、硫黄などを豊富に含む弱アルカリ性だという。開発されたばかりなので湯量も豊富で、汚染物質もないはず。
温泉好きの私としては、思わず入って「インスタグラム」にアップしたい欲望に駆られる。
温泉を新たな外貨収入源に
ところで北朝鮮で温泉は娯楽施設ではなく、立派な「医療施設」である。不足する病院や医薬品の穴埋めとして使われている。
「外貨温泉」と呼ばれ、外貨で入場料を払う温泉もある。北朝鮮の高位層が利用する。脱北者の証言によれば1回入るのに、労働者の1月分の平均給料の3~4倍もするという。
こういう高級温泉に海外からの観光客を招き、外貨を稼ぐつもりなのだろう。将来的には、温泉が売り物の日本の、強力なライバルになるかもしれない。
核、ミサイル開発に続き、「温泉大国」を目指す正恩氏のもくろみは、成功するだろうか。
국제관광지 개발은 北 국가전략…뒤로 밀린 남북경협 / KBS뉴스(News)
10月23日の金剛山に続いて25日には陽徳郡温泉観光地区を視察したと伝えている。
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。