開国後もパンデミック前には戻っていない
2022年7月に東南アジア各国が一斉に外国人観光客入国規制を緩和し、ほぼ新型コロナウイルスのパンデミック以前の状況に戻った。
他方、これまで厳しい規制をしてきた分、国民側に不安が残り、同時に数多くの観光関連業者が倒産したことから受け入れができるのかの心配の声もあった。
しかし、実際に開国してみると、これまでとは同じ状況に戻ったわけではない。
消えた中国人と大幅減のロシア人
東南アジアの人気観光国の1つタイは、パンデミック以前の2019年は、過去最大の外国人観光客が訪タイ。およそ3990万人超(タイ観光・スポーツ省統計参照)で、中でも中国が断トツで多く、日本と韓国も例年上位に入っていた。
ところが、2022年はこれまで上位にいた国々がかなり入れ替わってしまった。
これはタイが入国緩和しても帰国先、あるいは次の出国先の規制状況にも影響されたためだと考えられる。
また、国内の騒乱などの影響で海外旅行ではないというケースもあったかとみられる。
たとえば、2019年には上位10位に入っていたロシアもウクライナ問題の影響か、かなり入国者数が減った。
ヨーロッパ方面の北国の人々は、冬季にタイなどで過ごすことが過去は多く、ロシア人はパタヤなどのリゾート地で不動産投資をする人がかなりいた。そのため、パタヤの一部は飲食店などがロシア語の看板を掲げるほどであった。
少しずつロシアからの入国者が少しずつ増えているものの、中国同様、タイへの渡航者がしばらくは期待できそうにない。
高級ホテルを占めるインド人客
2022年7月の入国規制緩和後にタイに入国した外国人の数も、月別統計を見ると顔ぶれがこれまでとは大きく違う。
マレーシアとラオスは国境を接していることもあり、出稼ぎやビジネス、国境の向こう側の町に買い出しに出るなどの往来もあって、自然、出入国者が多くなるが、規制緩和後に特に大きく観光客が伸びたのはインドだ。
タイはインド系タイ人も多く、また数多くのインド人が出稼ぎやビジネスでタイを訪れる。
特に緩和後のケースでは、団体観光客がバンコク中心地でよく見られた。高級ホテルもインド人客で占められていたというところも複数あったほどだ。
日本よりも入国者数が少なかった米国や英国からの訪問客も多い。
元々これらの国々の人にタイは人気だったこともあって、日本と違い帰国時の入国問題が早々に解消されていることも大きかった。
タイ政府はマスク着用義務を解除しているものの、国民には不安があって着用者が多い中、欧米人はマスクをしないこともあって、都心のタイ人もマスクをしない人が増えてきている。
日本人のほぼ倍が入国した韓国人
日本人のほぼ倍が入国した韓国人
ここで注目したいのは、やはり韓国人の入国者数だ。
入国規制中は日本人と同等か少なかったくらい。過去の年間入国者は、日本人より少し多い程度であった韓国人の観光客が増加しており、日本人観光客のほぼ倍くらいの数値で推移している。
韓国も入国規制緩和には慎重な方で、2023年1月から指定地域以外からの入国に関しては陰性証明や隔離、PCR検査が完全撤廃になる。
日本と厳しさはそれほど差がなかったが、それでも韓国人のタイ渡航者が多いのは、タイ政府の目が韓国に向いていることも1つとみられる。
まだ規制中だった時期に観光客を呼び戻したいタイ政府観光庁が、最初に声をかけているのは韓国で、タイ北部のチェンマイのゴルフ場に団体旅行客を招致する計画をマスコミに発表している。
家電やスマートフォンも韓国ブランドが人気で、工場もタイ国内にある。
韓国エンターテインメントを見ても販路を外国に求めるあたり、韓国人のマインドに「海外」が当たり前になってきているのも関係しているのではないか。
日本人観光客も徐々にタイに戻りつつあるが、まったく来なくなった中国人観光客同様、これからはタイの観光産業では韓国人を始め、これまでとは違う国々の人がフォーカスされるようになるのかもしれない。
高田 胤臣(たかだ たねおみ)
タイ在住ライター。2002年から現在にいたるまでバンコクで過ごしている。『バンコク 裏の歩き方【2019-20年度版】』(彩図社、2019年・皿井タレー共書)、『ベトナム裏の歩き方』(彩図社、2019年)など、近著『亜細亜熱帯怪談』(晶文社、2019年・監修丸山ゴンザレス)。
タイ・東南アジア裏の歩き方ch(YouTube)、在住歴20年が話したい本当のタイと見てきたこととうまい話と(note)