コロナ禍に人気のきっかけは?
新型コロナウイルスで鎖国状態だったタイが、外国人観光客を受け入れるようになった7月から見て、いまだ日本人や韓国人の旅行者は以前の平常時ほどには戻っていない。
これは日本や韓国が入国制限を厳しくしていたからで、タイに旅行に来ても帰国に苦労することを懸念した人が来なかったとみられる。
しかし、10月からは徐々にアジア系の旅行者も増えてきており、年末年始は日本人・韓国人の旅行者増加が期待される。
そんなタイの首都バンコクでは、コロナ禍から韓国料理の人気がさらに急加速している印象だ。
東南アジア各国は、K-POPやドラマなどを始めとした韓国エンタメが人気で、外出すらままならなかった時期にサブスクリプション(サブスク)による映像配信でさらにファンが増えているとみられる。
それらをきっかけに、韓国文化に興味を持った人が韓国料理を楽しんでいるようだ。
タイの場合、和食ブームが2010年頃から続いており、今現在は地方都市でも和食店を見かけるほど定着している。
市場規模は和食の9分の1だが認知度は東京超え
タイのメディアが発表している市場規模は、タイ飲食業界が4000億バーツ規模(約1兆6000億円規模)のうち、和食は180億バーツ(約720億円)の市場だという。
韓国料理はまだ小さいが、20億バーツ(約80億円)。市場規模こそまだ小さいものの、韓国料理店の認知度の割合は、バンコクでは68.2%と言われる。東京においては53.8%ということで、バンコク市民の韓国料理店への興味は東京より強い。
タイではタイ人経営の韓国料理店、タイ企業がチェーン展開するタイプ、それから韓国人が経営する店などがある。
主に焼肉が多いものの、タイ人には好きな料理の1つであり、韓国料理店は、その需要にぴったりと当てはまる。
屋台でも韓国式の揚げ物、生のエビなどを使ったカンジャンセウが増えている。
ただ、在住日本人の韓国料理ファンという人物によれば、「少なくとも東京の韓国料理店の方が絶対的においしいです。タイの韓国料理でおいしいものに出会ったことはない」という。そのため、韓国料理人気は一過性ではないかと推測する。
和食店もうかうかしていられない?
しかし、和食も2000年以前は、素人の日本人やタイ人が見よう見まねで和食店を経営していて、今のようにプロの調理師や日本の有名店進出はほとんどなく、日本と同じ味とは到底いえなかった。
それでも、当時の在住日本人の和食への欲求からそういった店でも客は入ったものである。
韓国料理も今はそういった状況かもしれないが、逆に言えば、伸びしろがあるということでもある。
なにしろ、昔の和食は在住日本人が好んだが、今の韓国料理は母数の多いタイ人が好み始めているのである。
2013年から日本滞在の短期査証が免除になり、タイ人の日本旅行ブームが起こった。これによって、タイ人の舌が本物の和食に慣れてきた。同時に、海外旅行にも慣れ親しみ、タイ人の韓国旅行客も増えてきている。
そうなれば、本格的な韓国料理がバンコクに増えることは間違いなく、今後タイの和食業界も安心してはいられない状況になるかもしれない。
高田 胤臣(たかだ たねおみ)
タイ在住ライター。2002年から現在にいたるまでバンコクで過ごしている。『バンコク 裏の歩き方【2019-20年度版】』(彩図社、2019年・皿井タレー共書)、『ベトナム裏の歩き方』(彩図社、2019年)など、近著『亜細亜熱帯怪談』(晶文社、2019年・監修丸山ゴンザレス)。
タイ・東南アジア裏の歩き方ch(YouTube)、在住歴20年が話したい本当のタイと見てきたこととうまい話と(note)