再開のめどが立たない中国人の海外旅行
在日韓国大使館が、日本人への一般観光ビザ発給を開始すると発表。ビザを求めて長蛇の列が続く写真が、日韓メディアで盛んに報道された。
それについて、中央日報では、K-POPアイドルに憧れる若い女性のコメントを紹介しながら、韓国の音楽やグルメ、コスメなどの人気がいまだ衰えていないことが紹介されている。
朝鮮日報も内容は似たような感じで、2019年の100円=1150ウォンから現在は100円=960ウォンまで円安が進みながらも「費用の問題ではない」と、韓国旅行に行けることを喜ぶ日本人の発言を載せていた。
これらの記事からは、韓国側がアフターコロナのインバウンド景気に期待していることが察せられる。
かつてソウルの繁華街・明洞で大半を占めていたのは中国からの観光客だった。
店の呼び込みや看板にも中国語が目立っていたのだが、中国人の海外旅行は、いまだめどが立っていない。
そうなると、日本人に頼るしかない。日本人が主役だった頃のように、日本語にあふれる明洞。80~90年代の眺めが再現されるか。
パンデミック前の韓国人旅行者は約558万人
また、聯合ニュースの記事では、「観光ビザを申し込む日本人の長い行列ができた」と、中央日報や朝鮮日報の記事と比べて事実だけをあっさりと述べながら…、記事の最後は、日本がビザ免除措置を停止したことが、この騒ぎの発端になっている。と、やや批判めいた話で締めている。
「そこには韓国側の期待もあるか?」
パンデミックが起きる前の2019年には、およそ558万4600人の韓国人が訪日している。「NO JAPAN運動」が盛んで、観光目的で日本に行った韓流スターが激しい批判にさらされた頃である。
その影響もあって、韓国人の訪日旅行客は前年比25.9%減にまで落ち込んでいた。
が、それでも中国人に続いて国別総数では第2位だった。
韓国好きな日本人が多いのと同様に、韓国人もまた日本旅行が大好きだった。早く日本に行きたいと待ち望んでいる人も多いはず。
日本大使館前にも行列ができる?
もともと日韓両国では、90日以内の短期滞在であれば、相互の国民はビザ取得を免除する措置が取られてきた。
しかし、パンデミック後は、どこの国でも外国人観光旅客の入国を禁止する厳しい措置を取るようになる。日韓も同様で、ノービザの入国は不可能になる。
また、2020年の3月には、日本政府が水際対策を理由に韓国人へのビザ発給を原則停止とすることを決定。
当時の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、これに激しく反発し、対抗措置として日本人へのビザ発給を停止していた。
ビザの免除措置などの入国管理は、相手国と協議して同等の措置を取り、双方の国民が対等の条件で行き来できるようにする「相互主義」が慣例。
今回は、韓国が日本人観光客へのビザ発給に踏み切ったことで、日本側にもそれを期待しているだろう。
果たして、「日本政府はその期待に応えて迅速な決定が下せるだろうか?」
ソウルの日本大使館前にビザ発給を求める韓国人の長蛇の列…と、そんな見出しの新聞記事を見てみたいような。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。
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