ここにきて国境地帯の緊張状態が高まる
7月9日のニューズウイーク日本版によれば、北朝鮮は中国外交官の入国を禁止し、国境沿いに監視所やコンクリート構造物を増設しているという。国境を流れる川では、中国の観光船も北朝鮮側にあまり近づかないよう航路を変更したのだとか。北朝鮮側を刺激しないようにという配慮だろうか。国境地帯の緊張状態が高まっているようだ。
今年1月には中国の漁師が北朝鮮兵士に射殺されたというニュースが、日本の大手ニュースサイトでも伝えられている。蜜月関係と思われていた中朝両国の間で何か起こっているのだろうか。気になるところだ。
油断していると中国に併合されかねない
話は朝鮮戦争にまでさかのぼる。韓国領内に奇襲侵攻して戦いを優位に進めた北朝鮮軍だったが、米軍を中心とした連合国軍の介入で形勢逆転。連合国軍は平壌を占領し、中朝国境付近にまで迫った。北朝鮮は存亡の危機に陥る。それを救ったのが中国だった。
中国は人民解放軍を「志願兵」として派遣している。旧式兵器中心の装備は、連合軍にははるかに劣るが、兵力は100万人を越えていた。山野を埋め尽くす志願兵たちは、連合軍の強力な火器攻撃で死体の山を築きながらも進撃を止めない。いわゆる“人海戦術”によって連合国軍は後退を余儀なくされ、北朝鮮は窮地を脱することができた。
大量の血を流して北朝鮮を救った中国との間に「血の同盟」「血で結ばれた友好」と呼ばれる強固な同盟関係が築かれる。しかし、当初から北朝鮮は中国を完全に信頼していたわけではない。油断しているとチベットやウイグルのように中国に併合されかねないと…、むしろ、米国や韓国よりも警戒するべき相手と見ている。
「朝鮮半島北部は歴史的に中国の領土だった」 東北工程
中国の朝鮮半島への野心が形になって現れたものとされるが「東北工程」である。これは90年代後半から2000年代初頭にかけて、中国が国家的プロジェクトとして、莫大な予算を組んでおこなった歴史研究。成果は中国内で大々的に報道された。
それによれば、古代朝鮮に存在した高句麗や百済などの国家は、中国の地方政権だったという。つまり、歴史的に漢江(ソウル中心部を流れる大河)以北は中国の領土ということになる。韓国では慰安婦など日本との間にある歴史問題よりも「深刻な歴史問題」としてこれに反発、中国は朝鮮半島侵略を正当化するための理論武装をしている。と、その領土的野心を警戒するようになる。
血の同盟に綻びか?
北朝鮮からは東北工程に関するコメントはないが、国土のほぼ全域が「歴史的に中国領」とされているだけに、警戒しないわけがない。
しかし、現実的に頼る相手が中国しかいない状況では、あからさまな敵対行動はとれない。そう考えると、厳重なる国境警備は、新型コロナウイルスの流入だけではなく、長年の中国への不信感、侵略に対する警戒というのも多分にあるようだ。
また、7月21日の朝鮮日報日本語版によれば、中国は北朝鮮との国境地帯に監視装置を増設し、密入国や密輸に目を光らせているという。中国側もまた北朝鮮に不信を抱き警戒を高めている。まだ理由はわからないのだが、強固な血の同盟が綻びつつある。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。