米軍は韓国からも出ていくのか(1/2) 5回の在韓米軍撤退検討もの続き。
トランプ大統領は、韓国に対して防衛費分担金を5倍にするよう求め、実現しない場合は撤退もありうると警告した。安保情勢には関係なく、単純に米軍の駐留費用を節約するのが狙いだった。
在韓米軍を認めていた北朝鮮
ここに来て在韓米軍に新たなプレッシャーがかかっている。それは北朝鮮からの撤退要求である。
8月1日、金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長が「韓米合同演習中止」を要求する声明を発表した。この中で「米国が南朝鮮(韓国のこと)に展開した侵略武力と戦争装備から撤去しなければならない」として在韓米軍撤収を主張した。
北朝鮮は公的メディアでは、在韓米軍の撤退を主張しきたが、これはあくまで建前だ。南北首脳会談などの場では、強大化する中国の影響力を意識して、在韓米軍を容認していた。
2000年6月に行われた初の南北首脳会談で、平壌を訪問した金大中(キム・デジュン)大統領が在韓米軍の意義を説明すると、金正日(キム・ジョンイル)総書記は意外な答えを返した。
南北の統一が実現した後も、「米軍がいることで(南北の)勢力のバランスが維持されるようであれば、わが民族の安全も保障されるでしょう」と認めたのだ。
驚いた金大統領が、「ではどうして(あなたは)メディアを通じて米軍撤退を主張しているのですか?」と尋ねると、金総書記は、「わが人民の感情をなだめるためですから、その点は理解してくださるようお願いします」 と返事をしたという。
朝鮮戦争で多大な被害を出したため、表向きは在韓米軍を認めるわけにはいかないと本音を語ったのだ。
米軍撤退3つのシナリオとは
ここに来て、北朝鮮が急に「撤退」を言い出したのは、アフガン情勢を意識してのことかもしれない。韓国と米国の対立をあおる狙いもあろう。韓国内には、在韓米軍の重要性は認めるが、むしろ南北統一の障害にもなっているという考え方の人も少なくない。
今後、在韓米軍が撤退、もしくは大幅縮小する可能性があるとすれば、3つのシナリオが考えられそうだ。
1つは南北朝鮮で朝鮮戦争を正式に終わらせる「平和協定」が締結され、平和裏に在韓米軍が出て行く。
もう1つは韓国が中国との関係を強化する場合。米国と外交的摩擦を起こし、米軍が撤収する。
最後は米国と中国との緊張が高まる状況だ。米国にとって北朝鮮情勢は優先度が高くない。このため、韓国に自主防衛の強化を認め、米軍は中国シフトに移行する。
米軍が撤退した後、アフガンがさらに混乱するのか、一応落ち着きを取り戻すのかを世界が見守っている。その結果は在韓米軍にも影響を与えるに違いない。
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)、近著『金正恩が表舞台から消える日: 北朝鮮 水面下の権力闘争』(平凡社、2021年)。
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