59億円分輸出された韓国産イチゴ
韓国農林畜産食品部と大韓航空が提携して、昨年12月からシンガポールへのイチゴ輸出専用便を就航させるようになった。今年5月までに88回が運行され、合計958.7トンを空輸している。コロナ禍で旅客需要が激減するなか、航空会社にはありがたい顧客になっているとか。
近年の東南アジアでは、韓国産イチゴの人気が上昇中。この5年間で輸出額は倍増し、2020年には5379万ドル(約59億円)を記録した。東南アジアの蒸し暑い気候は、イチゴの生産に不向きなこともあり、かつては庶民がめったに口にできない高級な輸入フルーツだった。しかし、比較的安価な韓国産イチゴの輸入により、今では広く親しまれる味になっているという。
韓国で消費されるイチゴの9割以上が日本から輸入品だった
粒が大きく、糖度の高い韓国産イチゴは、価格だけではなく品質でも世界的に評価が高い。忠清南道などに行けば、イチゴ栽培のビニールハウスが一面に並び、いかにも世界有数の産地といった眺めなのだが。
実は韓国のイチゴ栽培は歴史が浅く、本格的に始まったのは2000年代になってからのこと。90年代までは韓国内で消費されるイチゴも、その9割以上が日本からの輸入品だった。
現在、韓国は日本の輸出管理強化に反発し、フッ化水素をはじめとする半導体素材の国産化を躍起になって推進している。当時はイチゴに関しても、日本からの輸入依存から脱却したいという思いが強かった。
韓国農林振興庁や各農家は必死になって品種改良や増産に取り組む。その努力の甲斐あって、2005年頃には優良品種「雪香」が開発される。韓国産イチゴの品質は世界に認められ、今日のイチゴ王国ができあがった。しかし、成功のために彼らが取った手段は、決して褒められたものではない。
韓国のイチゴ品種はすべて日本が起源
2000年代初期に韓国で栽培されていたイチゴの65%が、日本産イチゴの苗を無断で使用したものだったのである。今では有名な話だが、愛媛県の農家に韓国から農業研究者・金重吉(キム・チュンギル)なる人物が訪ねて来て、レッドパールという品種の苗の譲渡を求めた。農家は「契約者以外に苗を譲渡しない」「5年間だけ」という条件で譲渡に応じたが、約束は守られず。たちまちレッドパールは韓国各地で栽培されるようになった。
似たような手口で他のイチゴ品種も韓国に持ち出されている。雪香などの韓国品種はすべて、レッドパールや章姫、とちおとめなど、韓国へ流失した日本品種を掛け合わせたものだ。
2018年の平昌オリンピックでカーリング女子日本代表らがハーフタイムの「もぐもぐタイム」で食べていたイチゴが雪香だったとみられる。
韓国産イチゴ輸入停止。その結果…
その後、韓国産イチゴは日本へも輸出された。さすがに日本側もこの事態に黙っておられず、2008年には年間約3億4000万円のロイヤリティーを支払うよう要求している。だが、韓国側は自国開発した“新品種”だとして突っぱねた。対抗措置として日本は韓国産イチゴの輸入を差し止める。その結果、大量に余った韓国産イチゴは東南アジアに輸出されるようになり、今日の“世界ブランド”に発展したわけだ。
日本としてはかなり悔しい結末に…。価格で太刀打ちできない日本産イチゴは輸出機会を失った。その損失額は220億円になるという試算がある。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)などがある。