大統領選挙へ立候補できない36歳党代表誕生
大統領選挙へ立候補できない36歳党代表誕生
韓国最大野党「国民の力」の党大会が、6月11日に開催された。ここで新しい党代表に李俊錫(イ・ジュンソク)なる人物が選出されたのだが、この結果に韓国中が驚いている。36歳という若さに加え、国会議員の当選経験がない。また、大統領選挙には満40歳以上という出馬制限があるため、党首になっても立候補することができないのだ。
しかし、30代の新党首誕生は、世代交代を強く印象づける。誰が立候補しようとも若者票の獲得につながると、同党関係者は大きな期待を寄せている。
また、この新党首は若者だけではなく中高年男性にもウケがいい。彼は「反フェミニズム」を主張しており、これが年齢にかかわらず韓国人男性から広く支持されているという。
フェミニズム運動の高まりに韓国人男性は戦々恐々
儒教の力が強かった韓国は、男尊女卑の風潮が強く女性の立場は弱かった。2003年に民法が改正されるまで、戸主の継承は男性が優先され、子供は父の姓のみ受け継ぐということになっていた。そんな韓国でも、近年は男女同権を目指す運動が盛んになり、政治家にもフェミニストを自認する者が多くなった。
しかし、何事にも極端に走りやすい国民性だけに…、日本人からすると「ちょっとやり過ぎ」な感が多々ある。些細なことで過激なフェミニズムの闘士に囲まれて糾弾されるとか、世の男たちは戦々恐々とした状況。政治にも圧力がかかるようになり、男女差別撤廃というか男性に対する逆差別的な政策が実行されている。
特に男性たちが諸悪の根源と嫌うのが「女性家族部」だ。1998年に発足した大統領直属女性員会が次第に組織を拡大して行政機関に発展したもの。女性の権利や地位向上、青少年の育成保護などを目的に、現在は年間1兆ウォン(日本円で約970億円)以上の潤沢な予算を与えられている。しかし、
「最も不要で意味のない省庁」
と、発足当初から女性家族部の評判は良くない。女性団体などにも多額の資金援助を行うが、使い道には度々不正が指摘される。
“フェミニスト大統領”の誕生で女性家族部もさらに強大化
2019年には、女性家族部が各放送局や制作会社に「性平等番組制作案内書」を配布しているが、これがまた韓国民を辟易とさせる内容。
そこには「痩せた体や白い肌など、同じような容貌の者を過度な割合で出演させないように」「行き過ぎた化粧、身体露出をしない」などというガイドラインが提示されていた。女性の容貌差別を助長するなということだろうか。過激な衣装が目立つようになったK-POPのガールズグループに対する警告とも取れる。
「女性家族部は、軍事独裁政権と同じだ」
当時はそんな批判がわき起こった。70~80年代の軍事政権下で、長髪やミニスカートを取り締まったことに引っ掛けての皮肉である。
文政権で登録団体数が倍増。強力な支持母体に
評判の良くない女性家族部を廃止するべきという声は、政界でも日増しに強くなっていた。しかし、文在寅(ムン・ジェイン)政権の誕生により風向きは変わる。“フェミニスト大統領”を標榜する文大統領は、女性家族部を廃止するどころか組織を拡充して予算も増やした。これにより女性家族部から資金援助を受ける市民団体が次々に設立され、登録団体数は1278団体から2295団体にほぼ倍増。政権の強力な支持母体ともなっている。
フェミニズムを標榜する現大統領やその支持勢力に堂々と反旗を翻し、これに反感を持つ人々からの支持を集める。政権奪還を狙う国民の力からすれば、最良の手段なのかもしれない。次期大統領選挙はフェミニストと反フェミニズムの戦いになる、か。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)などがある。