OCHAの救済事業に北朝鮮も参加

OCHAの救済事業に北朝鮮も参加

ヤンゴン市内(著者撮影)

 ミャンマー軍は今年2月に、国民民主連盟の指導者アウン・サン・スー・チーを拘束し、全土を戒厳令下においた。反発する民衆の抗議デモが相次ぎ、現在も事態は収束するどころか、少数民族の武装勢力をも巻き込んで内戦の様相を呈している。このため、経済活動は麻痺して生活物資や食料の供給は滞り、都市部では新型コロナウイルスが蔓延して悲惨な状況だという。

 国連人道問題調整事務所(OCHA)は「ミャンマー人道主義的対応計画2021」を公開し、危機的状況にある人々の救済事業に乗り出している。これに賛同した日本、米国など14か国から5000万ドル(約55億円)を越える支援金が集まってきたのだが、なんと、そこに北朝鮮も参加を表明してきたというから驚いた…。

 大勢の自国民が飢えに苦しむ状況で、他国の世話を焼いてる場合じゃないだろう。とか、思ってしまうのだが。

国家的英雄の霊廟を北朝鮮工作員が爆破

 6月17日にOCHAから、北朝鮮が国連を通じてミャンマーに30万ドル(約3300万円)規模の支援を行うことが発表される。朝鮮日報や聯合ニュースなど韓国では多くの報道機関がそれを伝えた。ミャンマーと韓国、北朝鮮。この3国には深い因縁があるだけに、強い関心を示す韓国民も多い。

 1983年10月に韓国の全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領がミャンマー(当時の国名はビルマ)を訪問した。10月9日にはミャンマー独立の父アウン・サン将軍を祀るアウン・サン廟に献花する予定だったが、大統領を乗せた車が到着する直前に廟で凄まじい爆発が起こる。天井が崩落して21人が死亡する大惨事。先に廟に入っていた大統領秘書官や外務部長など、多くの韓国政府要人が犠牲者となっている。

 韓国政府は事件当時午後に、全斗煥大統領暗殺を狙った北朝鮮の犯行と断定。「力を持って報復する」と声明を発表した。また、現地警察当局の捜査で北朝鮮工作員3人が逮捕され、その自白から事件の全貌が明らかになる。

 「ラングーン事件」と呼ばれるこの事件は、米国が北朝鮮をテロ国家に指定する大きな理由になっている。また、国家の英雄を祀る廟を爆破されたミャンマー側も怒り心頭、北朝鮮との国交を断絶した。

仲間外れにされた者同士で意気投合?

仲間外れにされた者同士で意気投合?

観光地であり聖地でもあるシュエダゴン・パゴダ(著者撮影)

仲間外れにされた者同士で意気投合?

 90年代になっても北朝鮮とミャンマーの絶縁状態は続く。この時代に「嫌いな国ランキング」があれば、ミャンマー人が最も警戒して嫌う国は間違いなく北朝鮮だったはず。

 しかし、2000年代にはその風向きが変わる。ミャンマーもまた軍事独裁体制が国際的に批判されるようになり、経済制裁により投資は激減。「世界から仲間外れにされた者同士、親近感を覚えたのか?」2007年4月26日には北朝鮮との国交を回復した。

 欧米からの禁輸で近代兵器の導入が遅れるミャンマーは、北朝鮮からの軍事技術供与や兵器輸入に期待する。また、ミャンマーは世界有数の米生産国だけに、北朝鮮はその見返りに枯渇する食糧を得ることかできる。

 ウィンウィンの関係。政治経済の両面で交流は盛んになってゆく。それだけに、苦境な陥った友邦に援助を申し出るのも当然のことだろう。けど…、韓国からすればこの両国の蜜月は、あの事件の記憶が呼び起こされて、あんまりいい気分はしないはず。
 

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)などがある。

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