10年で人口2割減

10年で人口2割減

中国朝鮮族民族園(延吉) 出典 Senkaku Islands [Public domain], via Wikimedia Commons

 中国の少数民族でつくる自治州の1つ、吉林省朝鮮族自治州(州都・延吉)での朝鮮族(朝鮮半島にルーツを持つ中国人)人口比率が、30%台ギリギリまで減っていることがわかった。「自治州廃止」もささやかれている

 昨年11月に実施された中国の第7次人口センサスによれば、自治州内の朝鮮族人口は全体の30.77%である約59万7000人だった。これは10年前に行われた第6次人口センサス当時より約13万7000人、18.74%減少した。

 延辺で目立つのは漢族だ。65.79%と全体の2分の3ほどを占めた。延辺の総人口も約194万1000人で10年前より約28万1000人、12.66%減っている。

 自治州は少数民族が多く住む地域であり、自治管轄権が認められる。延辺の場合は、ハングルを中国語と併用して使うことが認められている。

 延辺自治州は、1952年に自治区が設立され、1955年から自治州に格上げされた。1953年には朝鮮族の比率は70.5%もあったものの、2012年にはその半分の35.6%まで落ちこんだ。

朝鮮族の学校8割減

 朝鮮族の人口減少は、韓国や上海など中国東南部への移住が原因だ

 子供の頃から中国語と朝鮮語を同時に学び、語学に強いため、仕事が見つけやすいことが影響している。一方、子供の教育問題も影を落としている。

 中国東北部、遼寧省の朝鮮族機関紙「遼寧新聞」によれば、かつて1000以上あった朝鮮族向けの学校は、人口減などのあおりで225校になった

 延辺朝鮮族自治州の代表的学生新聞の朝鮮族中学生報によれば、1990年代初めに1500ほどの朝鮮族の中高等学校があり、40万人の学生が在籍していた。しかし、2015年には2万人強に激減した。

 中国は、それでなくとも標準語中心の義務教育をする同化政策を進めている。朝鮮族の子供たちは、標準の中国語で、質の高い教育をしている漢族の学校に通うケースが増えており、必然的に朝鮮族自治州に住む理由がなくなっている。

韓国移住者は80万人にも

 朝鮮族は海外にも大挙移住している。韓国には帰化者を含めれば約80万人、日本にも10万人、米国とヨーロッパなどその他地域に5万余人が居住した

 少子高齢化が深刻化する韓国では、その穴を埋めるため外国人が増えており、250万人(2019年)を突破している。これは韓国の約5%に相当する。

 外国人国籍別で見ると中国が110万を超え、その6割が朝鮮族だ。まずは言葉がそのまま通じることが大きい。しかも、中国語が話せるため、企業では即戦力となる。
 
 2位はベトナム国籍で約22万。その差は歴然だ。
 

稼ぎを送金、物価高騰、出稼ぎの悪循環

 朝鮮族の多くは単身で韓国に来て、食堂や製造業など、韓国人が嫌がるきつい職場で働いている。韓国では収入は低くても、中国では高給に相当する。夫が中国に帰国すると、今度は妻が出稼ぎに行くという具合に、交互に訪韓することもある。

 故郷にいる家族にお金をせっせと送金する。その金が不動産投資などに回され、自治州内では物価の高騰を招いている。このため生活が難しくなり、より多くの人が出稼ぎや移住を選択せざるを得なくなっている

 そもそも地理的にも交通が不便で、開発が進まない。自治州に隣接する北朝鮮が、同国内の市場を開放すれば、言葉が通じる朝鮮族のビジネスチャンスになるはずだ。

 しかし、北朝鮮は新型コロナウイルスの防疫で1年半も中朝国境を閉鎖している。朝鮮族の自治州外への流出はさらに拍車がかかるだろう。


延吉 4K – 延吉街景 연길 시내 구경

 2021年5月撮影という最近の延吉中心部がよくわかる。

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、近著『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など。

『金正恩が表舞台から消える日』(平凡社)2021年7月発売予定
@speed011

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