新型コロナ関連で常務委員が解任
朝鮮労働党の最高指導部である政治局常務委員が解任されたことが明らかになった。
北朝鮮メディアは6月30日、前日の29日に党政治局拡大会議を開催したと報道。招集の目的は「党と国家の重要政策的課題の実行で現れた一部の責任幹部の職務怠慢行為を重大に取り扱い、全党的に幹部革命の新たな転換点をもたらすため」としている。
拡大会議を主宰した金正恩(キム・ジョンウン)総書記は「世界的な保健危機に備えた対策を講じる上で、一部の責任幹部たちが党の重要決定の執行を怠け、国家と人民の安全に大きな危機をもたらす重大事件を発生させた」と批判したとのことである。つまり、新型コロナウイルス対策のための防疫体制において「重大事件」があったというのだ。
その上で、「政治局常務委員、政治局委員、政治局候補委員、党中央委員会書記の選挙を行い、国家機関幹部の異動と任命を行った」としており、大幅な人事があったことが明らかにされた。
注目されるのは、党最高指導部である政治局常務委員の解任動向だが、誰が解任されたかは明らかにされていない。
常務委員は金正恩総書記をはじめ、党ナンバー2の「第1書記」就任の噂がある趙甬元(チョ・ヨンウォン)党書記、崔竜海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長、李炳哲(リ・ビョンチョル)党中央軍事委員会副委員長、金徳訓(キム・ドクフン)首相の5人が名を連ねている。
なお、金正恩総書記の実妹である金与正(キム・ヨジョン)党副部長も会議で演説を行ったようだが詳細は不明である。
軍事幹部の李炳哲氏と朴正天氏が解任か?
北朝鮮の解任報道を受け、韓国・聯合ニュースは30日、「常務委員の李炳哲書記と、政治局委員の朴正天(パク・チョンチョン)軍総参謀長が解任された可能性がある」と報じた。
会議の採決の際に李炳哲氏と朴正天が挙手していないことが根拠とされているが、確かに朝鮮中央テレビの映像を見ると両人は手を上げずにうつむいていることがわかる。
李炳哲氏と朴正天氏は軍事分野で重要なポジションにあり、もし解任が事実であれば今後の軍事開発に大きな影響を及ぼすことになる。
ともに軍事分野でスピード出世だった
李炳哲氏は2014年12月に核・ミサイル開発を統括する党軍需工業部第1副部長に就任。20年5月には、それまで空席だった党中央軍事委員会副委員長に抜擢された。中央軍事委員会の中では、委員長である金正恩氏に次ぐポストであり、その役割が期待されていた。
朴正天氏は、新型ミサイル試射を成功させた功績により19年9月に総参謀長に就任。20年10月には李炳哲氏とともに朝鮮人民軍で金正恩氏の大元帥に次ぐ元帥に昇格した。
朴正天氏は今年4月15日の金日成(キム・イルソン)主席の生誕記念日である太陽節に際して金正恩総書記が錦繍山太陽宮殿を参拝した時、これに同行した5人のうちの1人である。その他の同行者は李雪主(リ・ソルチュ)夫人、実妹・金与正党副部長、趙甬元書記らであったことから、朴正天氏も党内において特殊な立ち位置にあると評価されていた。
このように李炳哲氏と朴正天氏は軍事分野でスピード出世を遂げており、2人とも核・ミサイル開発で重要な役割を担ってきた。金正恩総書記から重用されていた彼らが本当に解任、降格されたとなれば、よほどのことであろう。
新型コロナウイルス対策を巡り不手際か?
ただ、金正恩総書記を激怒させるほどの重大事件が何だったのかは不明である。北朝鮮メディアは、「(金正恩氏は)責任幹部が国家非常防疫戦に関する党の重要決定の執行を怠ったことを追及した」と報じていることから、李炳哲氏と朴正天氏の管轄分野で何らかの重要報告を怠った、もしくは、防疫体制に穴を生じさせたと考えられる。
まず考えられるのは、何らかの不手際で新型コロナウイルス感染者の発生を招いたという可能性である。北朝鮮は昨年1月から国境を封鎖するなど厳格な対応を講じたことで「感染者ゼロ」を誇示してきた。もし幹部のミスで感染拡大を招いたとなれば当然責任を問われるだろう。
また、昨年7月に新型コロナウイルス感染が疑われる脱北者が開城から再び北朝鮮に戻った際も北朝鮮は党政治局拡大会議を招集しており、類似の事案の可能性もある。国境管理で何らかの不手際があったのかもしれない。
いずれにせよ北朝鮮が「新型コロナ対策で障害が発生した」という事実を公表したのは異例である。誰が解任されたか、どのような問題を生じさせたかは近日中に明らかになるかもしれない。
北朝鮮側の報道を受けて中国外務省は30日の会見で、「(新型コロナ対策を巡り)必要があれば北朝鮮への支援を前向きに検討する」と表明しており、中国も北朝鮮国内の動向に関心を寄せている。
八島 有佑
@yashiima