クラブケーキに韓国人の注目が注がれる
5月21日にワシントンで開催された米韓首脳会談で、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、半導体や電気自動車などの事業における巨額投資を約束した。その額は日本円にして約4兆3000億円、サプライチェーンは強化され「脱中国」を加速させることになる。これが会談では最も重要な話題だったことは間違いないのだが…、韓国民の関心それよりも、昼食会で出されたメニューの「クラブケーキ」に注がれていたという。
米韓首脳会談の約1か月前には、日本の菅義偉首相が訪米して日米首脳会談が行われている。この時も、菅首相とジョー・バイデン大統領が昼食をともにした。
コロナ過ということもあり、夕食の晩餐会を中止して代わりに簡素なランチをセッティングしたもの。そのメニューはハンバーガーだった。韓国の新聞各紙はこれを写真入りで大きく報道し、「日本の首相が冷遇された」とネット上で話題になった。
必死の外交努力でハンバーガー“冷遇”を回避
日本と比べて儒教の影響が強い韓国社会は、上下関係にうるさく、形式を重視する傾向が強い。メンツにもやたらとこだわる。1国の宰相に提供する食事がハンバーガーというのは「軽く扱われた」「メンツを潰された」と、韓国民には映ったようである。
訪米を約1か月後控えていた文大統領も、黙っていればハンバーガーを食わされた可能性は多分にある。そうなったら韓国世論はどんな反応を見せるか。気が気ではなかったようで「ハンバーガーは困る」「正式な晩餐会を催して欲しい」「文大統領はシーフードが好みだ」などと、外交ルートを通じてアメリカ側に再三の要求をした。
そのかいもあったのだろう。希望通り晩餐会とはいかなかったが、昼食会でのハンバーガーを避けることには成功した。この時に出されたメニューがクラブケーキだったのである。
クラブケーキとは、細かく解したカニ肉にパン粉や卵、タマネギなどを混ぜ油で揚げた料理。米国東部北端のチェサピーク湾で獲れるワタリガニを使ったものが有名で、地元のメリーランド州の名物料理になっている。
街中の屋台では、クラブケーキをパンに挟んだサンドイッチ、あるいは、ハンバーガーのバンズに挟んだりしたものが売られてもいる。これを頬張りながら歩く人々の姿もよく見かけられる。
それを聞くと、なんだかハンバーガーと変わらないような気がするのだが。
その料理名は否定的なスラングとしても用いられる
その料理名は否定的なスラングとしても用いられる
また、クラブケーキという言葉は、米国では否定的な意味を持つスラングでもあり、嫌いな人物に対して「crab cakes」などと言うことがある。「クラブケーキ野郎!」といった感じで使うのだろう。
首脳会談後の定例会見で、韓国の報道官は「米国側はシーフード好きの文大統領に合わせて、メリーランド州名物のクラブケーキを用意した」と報道陣を前に誇らしげに語っていた。菅首相のハンバーガーとは違って、文大統領には米国側も丁寧に対応していると言いたいのだろう。しかし、丁寧に対応していれば、米国側も否定的な意味のある料理を出してはこないと思うのだが…、考え過ぎか。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)などがある。