FIFAワールドカップ2022カタール大会の出場を目指し、アジア2次予選が行われていた最中の5月16日、アジアサッカー連盟(AFC)から北朝鮮の棄権が発表された。新型コロナウイルス感染のリスクがある場所へ選手を派遣できないという北朝鮮当局の判断によるもの。これによって大きな漁夫の利を得たのが韓国だった。
前回の南北対決は危険な「戦争」
北朝鮮と韓国は同じグループHで2次予選を戦っていた。同組は北朝鮮が棄権する直前までトルクメニスタンが勝点9で首位。その次に韓国、レバノン、北朝鮮が勝点8で並ぶ状況。各グループ1位と各グループ2位の中から勝ち点で上位4チームが、アジア最終予選に駒を進めることができる。
同予選において北朝鮮と韓国は、平壤の金日成競技場で2019年10月15日に一戦交えている。もしも、北朝鮮が棄権しなければ今年6月4日には、そのリターンマッチが行われるはずだった。また、韓国はその後にトルクメニスタンやレバノンといった実力伯仲する強豪との試合も控えている。
前回の平壤での試合は、0-0のスコアレスドローに終わる白熱した戦いだった。興奮した北朝鮮選手による暴言やラフプレーが頻発し、韓国チームの関係者からは「まるで戦争のようだった」「けがなく無事に帰国できただけでも快挙だと思う」などといった声が聞かれた。
リターンマッチが実現していれば、同様にタフな試合となったことが予想できる。サッカーファンは南北対決を楽しみにしていたようだが、予選突破が危うい状況だけに選手やチーム関係者にとって、避けたい相手だったことは間違いない。ここで負けたりするとワールドカップ出場はかなり難しくなる。ラフプレーで選手がけがさせられると、続く強豪チームとの連戦にも支障がでただろう。
それだけに北朝鮮の棄権を「朗報」と受け取った者は多かったはず。
北朝鮮の勝点帳消しで韓国が1位に繰り上がる
北朝鮮が2次予選で戦った試合は、棄権によってすべてのポイントが帳消しになった。これでグループHの各チームが得ていた勝点も大きく変動し…、北朝鮮に勝利していたトルクメニスタンは勝点3が消え、合計の勝点6となって2位に転落。韓国も北朝鮮戦の引き分けで得ていた勝点1を帳消しにされたが、合計勝点7で順位が逆転した。また、同じく勝点7となったレバノンには得失点差で上回っていたことから、グループHの1位に繰り上がる。
選手たちもこれで心に余裕ができたのだろう。この後に行われたトルクメニスタンとの試合は5-0で快勝。さらに6月13日の最終戦ではレバノンにも勝利して、終わってみれば2位に圧倒的な差をつけて、2次予選を突破することができたのである。
「すべては同胞のおかげ」
と、心の中で感謝した韓国チーム関係者も多かったはず。
FIFA World Cup 2022 Qualifiers Sri Lanka vs Korea Republic | Full Highlights
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)などがある。