日本を上回るスピードで進むワクチン接種
日本を上回るスピードで進むワクチン接種
ドライブスルー検査を考案して大量のPCR検査を実現した韓国は、感染流行を抑え込み新型コロナウイルス防疫の優等生として世界から注目されていた。しかし、ワクチン確保に失敗して接種が始まったのは、日本と同時期の今年2月から。ワクチン供給量も少なく、これも日本と同様で接種率は欧米諸国と比較して周回遅れの感がある。
しかし、確保したワクチンを接種するスピードについては、日本のはるか上を行っている。供給量が安定するようになった6月7日には、1日の1回目接種者数85万5642万人を達成。これまでの最高記録ということで、新聞でも大々的に報じられた。6月初旬には1回目接種者累計も1000万人を突破している。
日本では菅首相が「1日100万回」の目標を掲げている。が、韓国はワクチンの物量さえあれば、すでにその回数を達成することが十分に可能な状況だという。
国民ナンバーと兵役が大量接種を可能にする
6月初旬の日本はやっと1日の接種人数60万人を越えたところ。各自治体では予約システムの構築、注射の打ち手の確保などで四苦八苦。ここまでの回数が可能になるまで、それなりの時間を要している。
韓国はなぜこうも早くに、1日100万回可能な体制が整ったのだろうか。
1つには、ほとんど機能していない日本のマイナンバーとの違い。韓国では全国民の13桁の番号が割り振られ、その番号と顔写真が入った住民登録カードの携帯が義務づけられている。医療保険から免許証発行、自動車登録など、すべての行政サービスをこのカードで管理される。それゆえ、ワクチン接種の予約や管理にもこれが利用できる。日本のように接種券を郵送するような手間が省けるのだ。
また、韓国には徴兵制がある。これもコロナ禍などの非常時には有効に機能する。普通の男性は2年間の兵役義務があるのだが、医師の国家試験に合格した者が軍医官として徴兵されると、最初から将校の地位が与えられる。
軍医官の兵役は3年間と一般兵士より長くなるが、軍隊において兵士と将校では待遇には雲泥の差があり、医科大学卒業者ほぼ全員が軍医として兵役に就くことを望むという。
日本に勝る接種率で政権支持率も上がる?
日本に勝る接種率で政権支持率も上がる?
韓国軍の兵力は予備役を含めて300万人を越えるだけに、有事には大量の医師を動員することができる。韓国が大量のPCR検査を実施できたのも、現役や予備役を含めた大勢の医師や衛生兵を招集できたから。予備役招集でワクチンの打ち手もすぐに確保することができる。
また、韓国の異常なまでのワクチン接種スピードは、日本に対するライバル心も大きく作用しているようだ。
接種率が日本を下回ると、政権の支持率にも大きく影響する。そのため確保したワクチンがまだ少ない状況でも、2回目の接種分まですべて投入して接種率を上げるような無茶もやらかした。
NHKのコロナ特設サイト(世界のワクチン接種状況)にある「ワクチンを少なくとも1回接種した人(割合)」を見れば、6月14日の段階で日本は12.6%、韓国は23.02%で現段階では優位性を確保している。
両国ともに欧米と比べるとかなり低い数値ではあるのだが…、「日本に勝った」ということで、国民の納得は得られるか。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)などがある。