米韓首脳会談に初めて反応。専門家名義で批判抑えめ

米韓首脳会談に初めて反応。専門家名義で批判抑えめ

米国のバイデン大統領 出典 ホワイトハウス公式ツイッター

 北朝鮮が5月21日に開催された米韓首脳会談に初めて反応を寄せた。国営メディア・朝鮮中央通信は31日、国際問題専門家であるキム・ミョンチョル氏名義で「何を狙ったミサイル指針の撤廃なのか」と題した論評を発表。

 米韓会談で韓国のミサイルの射程などを制限する「米韓ミサイル指針」の撤廃に合意したことについて、「米国は口先では対話と言いながらも、行動は対決につながっている」と批判した。

 北朝鮮側が米韓首脳会談に反応を示すのは今回が初めて。だが、党や政府の公式的な談話ではなく専門家名義で、批判の度合いも抑制されている。

南北で異なる米国の方針に「破廉恥な二重基準」と非難

 米韓首脳会談では、韓国軍に「弾道ミサイル射程800キロ・メートル」という制限を課していたミサイル指針の撤廃に合意した。今後韓国は中長距離ミサイルの開発が可能となる。

 これに対して論評は、指針撤廃により「我が朝鮮の全域はもちろん、周辺諸国まで射程圏に入れられるミサイルを開発できるようになった」と指摘。朝鮮半島や周辺地域での軍拡競争を誘発することになると警告した。

 その上で、北朝鮮と韓国でミサイル開発の許容基準が異なることにも異議を唱えている。北朝鮮の“自衛的措置”であるミサイル開発に対しては国連決議違反と責め立てるのに、米国に追従する者に対しては無制限でミサイル開発の権利を許しているのは「破廉恥な二重基準」と断じた。

バイデン政権の新しい対北方針にも初めて反応

 また、バイデン政権が4月30日に新しく対北朝鮮方針を示したが、論評ではこれにも初めて反応した。

 論評は、「多くの国は、バイデン政権が考案した『実践的アプローチ』や『最大の柔軟性』という対朝鮮政策基調が単なる権謀術数にすぎないということを感じている」と指摘、米国の対話姿勢が偽りであると主張した。

 米国がミサイル指針を撤廃したことは「故意的な敵対行為」であり、対話とは真逆の行為と主張しているのだ。

 「我々の標的は南朝鮮軍ではなく、大洋向こうの米国である」と強調し、「南朝鮮を押し立てて覇権主義的目的を実現してみようとする米国の打算は、我が手で首を絞める愚行になる」と米国に警告を重ねている。

 なお、今回の論評では、韓国に対する批判は控えめであったものの、ミサイル指針撤廃を発表した韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対して「一言いわなければならない」とし、「何かをしでかしてから罪悪感から周囲の反応に神経をとがらせる卑しい様子は実に鼻持ちならない」と非難した。

専門家レベルの論評で米韓をけん制か

 この論評を受け、韓国の李種珠(イ・ジョンジュ)統一部報道官は31日、「個人名義の論評なので、政府が直接コメントをすることは適切でないと思う」とした上で、「慎重な立場から見守る」と言及した。韓国の聯合ニュースなどが伝えている。

 実際、今回の論評は「国際問題専門家」名義となっており、北朝鮮側が韓国や米国向けに発表してきた金与正党副部長談話や外務省談話と比べれば相対的に重要度は低い。しかし、今後、党や政府の幹部クラスが異なった論調の談話や声明を発表する余地を大きく残しているからだ。

 また、米国の対話姿勢を疑問視して米国側の言動に非難は重ねているものの、対話自体を閉ざすことはしていない。あくまで「対北敵視政策を撤回せよ」というこれまでと同様の主張を繰り返しただけで、批判のトーンもかなり抑えられている。このことから、今回の論評は米韓に対するけん制の意味合いが強いと考えられる。

 とは言え、この論評が現時点での北朝鮮の対米・対南姿勢であることには間違いないので、対話を目指す米韓は、この論評を指針にして対応を検討することになるだろう。

八島 有佑

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