中学生に10kg、高校生に15kgの鉄屑持参ノルマ

中学生に10kg、高校生に15kgの鉄屑持参ノルマ

北朝鮮では世界1徹底したリサイクル運動が実施されているようだ(旅行者撮影)

 新型コロナウイルスを防ぐためとして、中国との間の国境封鎖を続ける北朝鮮。物資の不足が深刻化しているはずだが、なんとか持ちこたえている。その秘密は住民に度を超したリサイクルを強いていることだ。

 その実態が報道から漏れ伝わっている。4月23日の米国の対北朝鮮放送、RFA(自由アジア放送)によれば、北朝鮮当局は「汚物を宝物に変えよ」と訴え、テレビを通じて模範的な事例を連日報道している。

 昨年、北朝鮮の最高人民会議(国会に相当)は再資源化法を制定。住民には1人あたり週に5キロ・グラム集めるというノルマが課されおり、しかたなく履き古してボロボロになった靴や、中身を絞り出した歯磨き粉の容器まで集めている。

 中学校の生徒は1人屑鉄10キロ、高校生も同じく屑鉄15キロを入学時に持ってくる必要がある。集められない場合には北朝鮮のカネで70~105ウォンを持ってこなければならない。北朝鮮では労働者の平均給与が3000ウォン程度とされており、生徒の負担はかなり重いと言える。

工場排水からリン成分を抽出し有機肥料へリサイクル

 韓国産業銀行(KDB)が発行する北朝鮮開発2020年冬号に、北朝鮮で報道されたリサイクル活動がまとめられている。それによれば、廃プラスチックを使ってポリエステル繊維、各種生活用品などを生産している。

 慈江道南部の都市、煕川の工場では産業廃水からリンに代用できる肥料を生産するのに成功した。同工場の技術者らは、工場から出る産業廃水からリン成分を抽出して、有機肥料も作ったという。手持ちの資源を、極限まで使い切っているのは間違いない。

日本へ流れ着く北朝鮮製ペットボトルが激減

日本へ流れ着く北朝鮮製ペットボトルが激減

外国人旅行者が見える範囲ではゴミ1つ落ちていない住宅街(旅行者撮影)

 日本の沿岸にはかつて北朝鮮製ペットボトルが大量に流れ着いたが、今はほとんど見られない。北朝鮮の道にゴミが散乱するシーンも見たことがない。間違いなく「世界1」徹底したリサイクル運動が影響しているだろう。北朝鮮の人たちが、日本や韓国に来て、ゴミ置き場を見たら「資源のむだ使い」ぶりに卒倒してしまうかもしれない。

 ただ、無限に資源を再生できるはずはない。壊れやすかったり、植物や身体に悪影響を与える可能性もある。

 当の住民たちは、「もう再利用できるものが探せない」(4月27日、北朝鮮専門サイト、デイリーNK)と悲鳴を上げているという。

 10年にわたり北朝鮮の漂着ゴミを探し続けているフリーライター金正太郎氏の定点観測レポートでも北朝鮮から流れ着くペットボトルが激減していることが報告されている(北朝鮮から漂着のペットボトル激減の意味 コロナ対策の国境封鎖、正恩氏「再資源化」の“鶴の一声”も理由か)。

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、近著『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など。

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