大統領就任4年特別演説で南北対話に言及
大統領就任4年特別演説で南北対話に言及
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は5月10日、就任4年の節目にあわせて特別演説を行なった。
文在寅大統領は「私の任期はあと1年で終わる」とした上で、「残りの1年は過去4年間のどの時点よりも重要なものとなる」と強調。
演説では世界が直面している新型コロナウイルス対策や経済政策などの実績をアピールする一方で、南北対話についても決意を述べた。なお、今年1月の年始記者会見では悪化する日韓関係の解決に取り組む姿勢を示していたが、今回日本については言及がなかった。
米朝対話での韓国の存在感アピール
文在寅大統領は、「朝鮮半島の平和は民族8000万人の願望である」とした上で、残りの任期1年は「不完全な平和から不可逆的な平和へと移行する最後の機会」と述べ、南北対話への決意を述べた。
まず、米国のバイデン政権が4月末に対北朝鮮政策の見直し作業を完了させたことについて、「我々(韓国)と緊密に協議した結果」と韓国政府の働きを強調。米国が新たに示した「朝鮮半島の完全な非核化」という基本目標と、2018年の米朝シンガポール宣言に基づいた「柔軟かつ漸進的、実用的な外交アプローチ」という外交方針に対して支持を表明した。
米国の新しい基本目標と外交方針は北朝鮮側の主張に近く、対話を進めたい韓国政府の要請もあったものと考えられる。さらに、文在寅大統領は5月21日にホワイトハウスで開催される米韓首脳会談についても言及し、「米韓同盟の強化を図り、米朝対話および南北対話を再開させるために対北朝鮮政策を調整する」旨述べている。
これらの発言には、北朝鮮政策について米韓で温度差があるという指摘もある中で、米朝対話における韓国の存在感や米韓同盟をアピールする狙いがあったとみられる。
「南北対話を阻害する違反行為には厳正な対処」表明
文在寅大統領は「韓半島(朝鮮半島)平和プロセスを進展させる機会が訪れたなら、その時は可能な限りのことを尽くす」と決意を述べるとともに、「北朝鮮が前向きに対応することを楽しみにしている」と期待感を示した。
国民に対しても「南北対話の雰囲気醸成に力を合わせてほしい」と協力を求める中で、「南北協定や現行法に違反することで南北関係に水をさすことは決して望ましくない。政府は法律を厳格に施行せざるを得ないことを強調したい」と伝えた。
これは、韓国警察が5月6日、4月末に対北朝鮮非難ビラの散布を強行した脱北者団体「自由北韓運動連合」の事務所を家宅捜索したことと関連した発言である。要は、「韓国政府は今後も南北対話に悪影響を及ぼす活動には法律に基づいて徹底的に対処する」という指針表明であり、国民に対して理解を求めたのである。
同団体が昨年5月に続いてビラ散布を強行したことで、金与正(キム・ヨジョン)党副部長が韓国政府の対応を強く非難する談話を発表しており、文在寅政権としては強い危機感を持っているのだ。
北朝鮮も米韓首脳会談に関心か
今回の文在寅演説に対して、数日後に北朝鮮側が国営メディアなどを通じて反応を寄せる可能性がある。
ただ、2019年の米朝ハノイ会談が不調に終わって以降、北朝鮮側の対南メッセージはほぼ一貫して「言葉ではなく行動で示せ」という論調であるため、今回も韓国側が歓迎するような反応は期待できない。今回も単なる決意表明と受け止められるからだ。
とは言え、北朝鮮としても米朝対話や南北対話の進展に関心がないわけではなく、5月末の米韓首脳会談までの両国の動向を注視していると考えられる。
八島 有佑