違反したら3年以下の懲役、または3000万ウォンの罰金
「韓国の一部団体が北朝鮮に向け、風船を飛ばしました。風船の中には金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を批判する内容のビラなどが入っているそうです」
このようなリポーターの説明とともに、風船が飛ばされていく映像をニュース番組で見たことがある人も多いだろう。韓国の一部の団体が、北朝鮮に向けてビラを飛ばすことはもう当たり前の光景になっている。もちろん、ビラを飛ばされる側の北朝鮮は、この行為に反発しており、韓国政府に対してビラ飛ばしを取りやめるよう暗に迫っている。
これを受けてなのか。2020年12月、韓国の国会は、これらの行為の禁止を中心とした改正法案を可決。ロイター通信によると、物品や印刷物などの他、音声を用いての批判活動も禁止の対象だという。この法案に違反すると3年以下の懲役、または3000万ウォン(約260万円)以下の罰金が科される。
この法案に関しては世界各国から批判の声が寄せられている。北朝鮮に対する文在寅(ムン・ジェイン)政権の態度などを中心として、この法案について考えていく。
北朝鮮に融和的な文政権へ弱腰との批判
文在寅大統領は、2017年の大統領選挙出馬時から北朝鮮に対して融和的な政策を推し進めるとアピールし、南北首脳会談を実現させた。その一方、2020年9月に発生した北朝鮮軍による韓国人男性銃撃事件では、文大統領が「容認できない事件だ」と発言したが、それ以降は北朝鮮に対して一歩踏み込んだ対応を見せず、遺族からは不満も噴出する事態となった。
このように文政権は北朝鮮を意識しすぎるあまり、「弱腰だ」と批判を招く対応が目立つ。今回のビラ散布法案も、北朝鮮に融和的な考えを持つ文大統領だからこそ可決できたという印象が強い。
野党や国連関係者から反対や懸念の声
韓国の野党からは、ビラなどが「北朝鮮の住民に対して、北朝鮮の真実を伝える唯一の情報源」だとしてビラ禁止法案に強く反対していた。しかし、法案は与党の強行採決で可決された。米国を中心とした海外からも、この法案に関して批判的な意見が多い。
韓国・東亜日報は2020年12月22日配信の記事で、「北朝鮮の理不尽な要求に折れて、市民の権利に制限を加えるような措置は再考すべきだ」との朝日新聞の社説を紹介。国連のキンタナ特別報告者も、ビラ禁止法案は「ビラを飛ばしている団体などの活動を制限するものだ」と強調した。
しかし、キンタナ氏の批判に対して韓国政府は反論する。康京和(カン・ギョンファ)外相(当時)は「表現の自由は重要な権利だが、絶対的なものではない」(産経ニュース2020年12月21日)と批判を一蹴している。
国際協調の足並みを乱す足かせに
国際協調の足並みを乱す足かせに
海外からビラ禁止法案に対する批判が出るのはやむを得ない。それは米国などが北朝鮮に対して何らかの制裁をしているのにも関わらず、韓国が北朝鮮を「援助」し、まるで北朝鮮に「譲歩」しているような構図に見えるからである。
韓国政府や与党からすれば、これも政策の一環なのだろう。しかし、国際協調という足並みを考慮したとき、この法案が大きな足かせになるのは確実だと言える。事実上、ビラを飛ばしづらくなった団体の今後の動きも注視したいところだ。
小林 英介(こばやし えいすけ)
ライター。ウェブメディアで便利グッズから政治に至るまで幅広く執筆している。現在は「ピコピコカルチャージャパン」で連載中。過去の執筆媒体は「公務員総研」「まいどなニュース」など。
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