日本で語られないソウル市長選の「争点」 

日本で語られないソウル市長選の「争点」 

3年連続聴取率1位のキム・オジュンのニュース工場 出典 メディアトゥディ

日本で語られないソウル市長選の「争点」 

 韓国ではソウルと釜山の市長選の話題で持ちきりだ。4月7日に投開票される。

 いずれも野党候補の優勢が伝えられている。

 それはそうだろう、この市長選は、与党民主党系の市長のセクハラ問題が引き金だったからだ。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権は、不動産を巡る不祥事などで支持率が低迷しており、市長選挙への逆風となっている。もしも、両市長選で与党が敗北すれば、来年の大統領選挙にも大きな影響を与えるだろう。

 ところで、市長選で注目を浴びているのは別の所にある。

 野党候補がソウルで勝った場合、3年連続で聴取率1位を独走しているお化けラジオ時事番組が、廃止されるかもしれないと報道されて争点となっているのだ。

聴取率1位の秘密は偏向ぶり

 この番組は「金於俊(キム・オジュン)のニュース工場(김어준의 뉴스공장)」。公共放送のTBS(交通放送)で平日の朝7時過ぎから2時間放送され、ユーチューブでも同時中継されている。筆者も毎朝見ている。最近調査では聴取率11.8%で、2位は10.1%、3位は8.3%だった(メディアオヌル、2月15日)。

 ぼさぼさ頭、ひげ面の言論人の金氏が司会を務め、ヘビーメタル調の音楽を挟んで政治問題などを語る。

 これが文在寅政権を支持する進歩勢力の本音そのままなのだ。

 番組に専門家も呼ぶが、やはり進歩系の識者が目立つ。保守系メディアを名前を挙げて攻撃することもある。日本についても厳しい発言をする。

 この「偏向」ぶりが人気の秘密だが、保守系の政治家やメディアは「政権のプロパガンダ放送」と批判し、金氏に問題発言が出れば、大々的に報道している。

 日本にこんな攻撃的なラジオ番組はあるまい。

予算の8割をソウル市が出す交通放送

 昨年、セクハラ問題に関連して朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長が自殺した。被害者は匿名で被害を証言している。若い女性のようだ。この被害者について金氏は、「背後に政治勢力がいる」などと発言して、人権を無視していると物議を醸した。

 ニュース工場は、聴取率こそ1位だが、韓国放送広告振興公社の調査によれば、有益性、信頼性、中立性など5項目すべて最下位に評価されている。内容の偏りがあちこちから批判されている(中央日報、3月31日)。

 実はTBSに対しては、予算の約8割をソウル市が出しており、事実上ソウル市の傘下にある。故・朴元淳前市長の後押しで生まれた番組で、朴氏自身、何回も出演していた。

変更を示唆する呉世勲氏。SNSで投票を呼びかける与党

変更を示唆する呉世勲氏。SNSで投票を呼びかける与党

呉世勲氏 出典 Jinho.Jung [Public domain], via Wikimedia Commons

変更を示唆する呉世勲氏。SNSで投票を呼びかける与党

 一方、ソウル市長に当選が有力視されている、野党「国民の力」所属、呉世勲(オ・セフン)元ソウル市長は、ニュース工場を問題視しており、番組への出演も拒否している。

 「番組を続けるにしても、そもそも放送局の設立目的である交通情報を流すべきだ」と呉氏はインタビューに答えている。何らかの方法で番組の内容を変更させる意向のようだ。

 これに対して金氏は、呉氏に噂されている土地関係の疑惑を連日取り上げており、徹底的に対抗している。

 与党議員は、「金於俊のいない朝が怖くないですか?」とSNSを通じて若者に投票を呼びかけている。果たして名物ラジオ番組はどうなるだろうか。

 金於俊のニュース工場は以下のサイトから聞くことができる。
http://www.podbbang.com/ch/12548

(リンク先はすべて韓国語サイト)


3월 31일(수)[김어준생각/김어준의 뉴스공장]
 

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、近著『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など。

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