米国のバイデン政権が、近く新たな北朝鮮政策を発表する。それを前に、米国の国務長官と国防長官が日本と韓国を訪問し、いわゆる2プラス2協議(外務・防衛担当閣僚協議)を通じ、政策の調整を行った。
ブリンケン米国務長官は、韓国での記者会見で「対北朝鮮政策は圧力と外交的なオプションを検討している」と説明した。加えて「北朝鮮の非核化に専念し、広範囲な脅威を減らさなければならない」と述べている。
つまり、圧力路線は変えないが、交渉の道も探るということだろう。
米ワシントン郊外で目撃か?
米ワシントン郊外で目撃か?
そんな中、気になる消息が伝えられた。「白頭血統」(金ファミリーのこと)の1人である金ハンソル(漢字では漢率と表記されることが多い)氏が、米国のワシントン近郊で目撃されたというのだ。
ハンソル氏は、金正恩総書記と同じく金正日氏の孫に当たる。
ハンソル氏の父は、よく知られている通り、故金正日氏の長男である金正男氏であり、本来なら白頭血統の有力な一員だ。ハンソル氏は、2017年2月に正男氏がマレーシアで殺害されたあと、行方が不明になっている。
2020年になって米国雑誌「ザ・ニューヨーカー」が、ハンソル氏に関する興味深い記事を掲載した。ハンソル氏が当時住んでいたマカオから台湾を通じて、オランダに脱出したがオランダの空港で消息を断ったという内容だった。
同誌は、この時、CIA(米中央情報局)の要員を名乗る2人の男性が、ハンソル氏をオランダに連れて行ったと指摘しており、米国がハンソル氏を保護しているとの見方が強まった。
サングラスをかけ、屈強な男性4人が警護
サングラスをかけ、屈強な男性4人が警護
著名な脱北者の安燦一は、自身のユーチューブチャンネルで金ハンソル氏が最近、米国ワシントン近郊マクリーンで目撃されたと明らかにした。ここは、CIAの本部に近く、韓国系米国人も多く住んでいる。
ハンソル氏は、車でショッピングモールに食事に来ていた。ジーンズを着てサングラス姿だった。警護員とみられる4人の屈強な男性に囲まれていたという。
彼に気がついた人が携帯で写真を撮ったが、警護員が携帯を取り上げ、写真を強制的に削除したという。
証言の信憑性は、はっきりしない。ハンソル氏に関しては、これ以外の情報はないが、雑誌の記事からしても、CIAの保護下で、米国に匿われていると考えるのが自然だろう。
金正恩氏に不測の事態が起き、北朝鮮指導部が深刻な混乱に陥った場合、「金ファミリーを受け継ぐ人間」として、間違いなく表舞台に出てくるだろう。
Kim Han-sol: ‘My father has been killed’ – BBC News
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、近著『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など。