アンコールワットのシェムリアップ州が犬肉用の屠殺を禁止

アンコールワットのシェムリアップ州が犬肉用の屠殺を禁止

ベトナムで見かけた犬肉の焼肉。ベトナムはハノイなど北部に犬肉の店が多いように見受けられる

 コロナ禍に揺れる東南アジアは、ほとんどが国ごとロックダウンしているような状態で、外国人観光客がほぼゼロの状態がずっと続いている。

 日本人には遺跡アンコールワットが有名なカンボジア、シェムリアップ州も観光で成り立っていた地域だ。実はこの地域は、かねてより「犬肉の供給ハブ」という裏の顔を持っていると、欧米の動物愛護団体などから指摘されていた。

 シェムリアップ州当局はその事実を認め、2020年7月7日、同州内で犬を食用のために捕獲したり、屠殺することを禁じた。違反した場合、日本円で18万円から130万円ほどの罰金、5年未満の懲役になるという。カンボジアの平均年収が25万円前後とされる中ではかなり厳しい法令となる。

年間300万匹の犬が消費されるカンボジア

 カンボジアには犬食文化がある。薬効成分があると信じられ、年間300万匹が消費されているという指摘もある。安価なたんぱく源として人気があり、特にシェムリアップ州は20軒ほどの専門レストラン、シェムリアップ中心地に1つ、郊外に5か所の屠殺もしくは養殖場があるとされる。

 しかし、ほぼ無法状態が続いていたため、衛生的な観念から見ても、さらに世界の標準的な倫理から見ても犬食文化は望ましくないとシェムリアップ州は判断。狂犬病の蔓延などの恐れもあって、昨年、禁止令が発出された。しかし、これはあくまでも同州内での法令であり、ほかの地域ではいまだ禁止はされていない。

韓国人を中心にした外国人観光客が主要顧客

 このシェムリアップ州での犬肉消費には、いくつか問題点があった。まず、年間300万匹の犬が屠殺されているが、「安価なたんぱく源」に問題のヒントがある。というのは、カンボジア各地に養殖場があるとされるが、隣のタイなどで飼われている犬や野良犬などが不当に捕獲され、カンボジアやベトナムに持ち込まれているという指摘がある。

 タイでは犬や猫の肉を食用とすることを禁じている。ベトナムは、いまだ犬肉の消費が多く、カンボジアの倍以上とも言われる。仕入れコストがある意味ではゼロであるため、犬肉が安価になっているとされる。

 また、シェムリアップ州内では、月間で7000匹ほどの犬肉が消費されていると言われる。他州と比較しても圧倒的に多いようではあるが、実はシェムリアップ州内のカンボジア国民における犬肉を常食する割合はわずか10%程度だという。消費のほとんどが外国人観光客で、自国においても犬食文化が根づいている韓国人が中心になっているという。

犬肉を求めてカンボジアを目指す人も

犬肉を求めてカンボジアを目指す人も

シェムリアップにある地元民向けの市場。こういうところでも犬肉を売っていたのだろう

 韓国人にとっては人気の観光スポットでもあるし、韓国企業も多く進出しているため、在住韓国人も少なくない。そのため、コロナ禍においては、まだ落ち着いているが、観光客が増えるハイシーズンは、より犬肉の消費量が増えるということで、シェムリアップはこの観光客が少ないタイミングで犬肉の禁止に踏み切ったようだ。

 カンボジアではワニ肉やヘビ肉なども食す。日本や隣国のタイと比較して、食材においては、かなり特殊なものが少なくない。日本人が犬肉を求めてアンコールワットを目指すことはほとんどないだろう。しかし、国籍によっては、こうした特殊な肉を好んで食べる場合も多く、それが消費量に大きな影響を与える。

 現在は禁止となっているが、国内外から警察などの取り締まり機関が汚職蔓延などで、しっかりと取り締まれるのかという疑問の声も挙がっている。

高田 胤臣
タイ在住ライター。2002年から現在にいたるまでバンコクで過ごしている。『バンコクアソビ』(イースト・プレス・2018年)、『バンコク 裏の歩き方【2019-20年度版】』(彩図社、2019年・皿井タレー共書)、『ベトナム裏の歩き方』(彩図社、2019年)、近著『亜細亜熱帯怪談』(晶文社、2019年・監修丸山ゴンザレス)など。
@NatureNENEAM
在住歴20年が話したい本当のタイと見てきたこととうまい話と(note)

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