新居購入が結婚を認めてもらう条件
大家の劉さんはイライラしていた。部屋を貸していた北朝鮮人夫妻が中国へ戻らず8月末に迎えた賃貸契約が更新できず、借り手が不在の状態が始まるからだ。
中国沿岸の地方都市でサービス業に従事する劉さんは、小学生の子どもとホテル勤めの夫との3人暮らし。
中国では多いパターンとして結婚するときに新郎は新居(中古も含め)を購入する。新居を信頼担保にして新婦の両親に結婚を認めてもらうという習慣が個人で部屋が買えるようになった2000年代前半から根付いている。
劉さんの夫も結婚したときに中心部から少し離れた郊外に広めの1ルームの部屋を分割払いで購入した。しかし、この部屋には自分たちは住まず、賃貸として貸し出して、自分たちは狭いが職場近くの別の部屋を借りて住んでいる。賃貸収入と支払う家賃に差額があり、多少の不動産収入を得ている。
現代中国には劉さん夫妻のようなパターンは珍しいケースではない。
パスポートと現金があれば賃貸契約できる外国人
中国の賃貸契約は都市によって多少差はあるが、1年契約、家賃の支払いは半年払いが基本で、1年一括払いを求めたり3か月払いで承諾する大家もいるなど中国では一般的に大家の権利が強い。また、日本の賃貸物件と違い中国の賃貸は家具家電付きですぐに生活できる。新型のテレビや洗濯機が設置されているかは大家のセンスと懐に左右されるので、この点も物件選びの大きなポイントとなる。
さて、劉さんは5年前の夏にある北朝鮮夫妻に貸し出した。中国では賃貸契約時に外国人でも詳しい仕事内容などの確認は不要で「UR都市機構」のようにまとまった家賃が支払えれば、外国人もパスポートのみで居住することができる。その代わり、外国人は管轄公安や機関へ外国人登録をしないといけないので大家の手間が増えるため外国人に貸すか貸さないかは最終的には大家次第となる。
賃貸契約を結んだ北朝鮮人夫妻は通訳を介す必要がないくらい流暢な中国語を話し、夫妻とも穏やかな印象で、劉さん曰く「いい人」だという。仕事は詳しく聞いていないが中朝貿易に関わっていると聞いたとのこと。
新型コロナによる中朝国境封鎖で戻れなくなった?
大家である劉さん夫妻は新型コロナウイルスの影響で給料が激減するなど大きな影響を受けている。だからこそ、家賃収入はより重要なものになっていた状況で、追い打ちをかけるように北朝鮮人夫妻戻らずが発生した。
どうやら北朝鮮人夫妻は春節(旧正月)前に北朝鮮へ帰国していたようだが、新型コロナの影響で中朝国境が封鎖されて中国へ戻れなくなったのではないかとみられる。
みられると書いたのは、北朝鮮という国柄、夫妻から劉さんへ一切連絡がないため詳細が不明なのだ。
劉さんは電話できなくても「微信(WeChat)」で一言くらい連絡くれてもいいのにと不満げだ。しかし、北朝鮮国内から北朝鮮人がWeChatを送ることは不可能に近いと劉さんへ伝えるも理解できないという反応を示す。
(続く)