科学技術強国を構築する目標を掲げる北朝鮮
スマートフォンの普及、AI技術の発展、5Gの実現など、近年、世界的に成長が著しいIT産業。多くの国が競い合うようにIT技術を発展させる中、開発途上国と位置付けられる北朝鮮のIT事情はどうなっているのか。
同国では、1998年から2002年までの期間に「科学技術発展5か年計画」が策定された時期からIT産業を推進し始めた。また、2006年4月に行われた最高人民会議では、2022年度に科学技術強国を構築するという目標が提示されている。
こうした北朝鮮のIT化への取り組みは、人々に大きな変化をもたらした。今回は2つの要素から「北朝鮮のIT産業」を紐解いてみよう。
チンダルレ7の音声・指紋認証機能など最新技術に注目が集まる
まず注目すべきは携帯電話の普及だ。「国際電気通信連合(ITU)」と「オラスコム・テレコム」(エジプト)の資料によると、携帯電話の加入数は2009年では6万9000台だが、2013年には242万台と飛躍的に数字が増加。4年後の2017年時点では400万台を突破。2018年10月韓国の趙明均統一相は国会答弁で580万台にのぼると明らかにしており、現在はさらに数字が伸びていると予測される。
技術面でも他国と比較しても劣っているというわけではない。今年の2月には音声、指紋認証機能が搭載されたスマートフォン「チンダルレ7」が発表されており世界的に注目を集めた。韓国「聯合ニュース」によると、チンダルレシリーズは、特色ある見た目と機能、使いやすさで発売されるやいなや多くの人々から人気を集めているという。その他、「アリラン」、「平壌タッチ」、「青い空」といった機種がある。今後も各社から続々と新機種がリリースされるだろう。
北朝鮮で本格化する「遠隔大学」。IT人材育成へ力を入れる
北朝鮮で本格化する「遠隔大学」。IT人材育成へ力を入れる
次に注目したいのが、IT化によってもたらされた学習方法の変化。近年、日本においてもインターネットの浸透により学校のオンライン授業が加速したが、北朝鮮でも学習スタイルに変化が起きている。同国でいち早くIT化を取り入れた学校が「金策工業総合大学」だ。
日本でいうと通信制大学とよく似た制度だが、金策工業総合大学は家にいながらでも遠隔で教育を受けられるシステムを確立。昼間に開校している大学と同様の5年制(5年6か月在籍。他の一般的な北朝鮮の大学は4年制)であり、多くの卒業生を輩出している。また、「金日成総合大学」でも2015年に遠隔教育システムを導入している。
今年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、今後も多くの大学で遠隔化、「遠隔大学」が進んでいくことが予想される。
現在、北朝鮮はIT人材を育成するために国内にIT専門校を設置する計画を進行中だ。平壌「共同通信」によると、首都平壌では19校を設立し、ITの基礎と応用知識を学習するという。北朝鮮発のIT人材が世界中で活躍し始めるのも遠くはない未来になるかもしれない。
North Koreans love smartphones, but they’re not supposed to be getting any tech imports | The World
井上 一希
フリー編集者。マガジンハウス「anan」、宝島社「sweet」、読売新聞ライフスタイルページの編集担当。好きな食べ物は「冷麺」。