消滅したアンヘレスらしさ
初めてフィリピン最大の歓楽街アンヘレスを訪れると、こんな街かと思うだろう。しかし、30年前からの通い続けた日本人男性N氏は、「アンヘレスらしさは消滅した」と肩を落とす。近年、日本からアンヘレスに隣接する「クラーク国際空港」まで直行便が就航し格段に便利になったにもかかわらず、この数年は訪れていないそうだ。
アンヘレスは米軍のクラーク基地の軍関係者向けに発展した歓楽街のため、欧米的な酒と音楽を楽しむ文化を基礎としていた。入店料、テーブルチャージなしでドリンク代のみで手軽に楽しめる。店内には、洋楽やユーロビートなどノリノリのウェスタン音楽が流れる中、店の女性たちと会話したり、ステージショーを見たりしてゆったりと過ごす。セカセカした雰囲気もなく、フィリピンらしく適当で緩い空間が逆に居心地がよかった。
あとは気に入った女性がいれば交渉して朝まで一緒に過ごすというのがアンヘレススタイルだった。
韓流化=置屋スタイル
韓流化=置屋スタイル
「韓国人はアンヘレスに『置屋』を持ち込んだんですよ。韓流化した結果、バーは楽曲や酒を楽しむ場所でなく、置屋遊びの空間となってしまい興ざめです。今や従来のゆったりと楽しめるスタイルのバーが少数派になってしまい残念の一言です」(N氏)
チップ文化のアメリカの影響か、アンヘレスのバーは、客を楽しませるため本格的なステージパフォーマンスを披露している店も少なくなかった。そのため、バーホッピング(複数のバーを巡ること)や店内での女性たちとのやり取りもアンヘレスの文化の1つとして定着していた。
現在、韓流バーへ入店すると、やる気なく立っていたステージ上の女性たちの動きがピタリと止まり、入店者へ向かって挨拶する。そこへボーイがやってきて、「どうでしょうか?」とステージを指差す。N氏の指摘通りまさに置屋だ。
「今はビールを飲みたいから後で」と断ると、途端に態度が変わり、感じの悪い雰囲気に包まれる。ステージ上の女性たちはショーをすることなく次の客を待っている。
初アンヘレスなら韓流のほうが気軽に楽しめる?
韓流化によって変わったものは他にもある。流れる音楽がK-POPになり、メイクや衣装も韓国風になり、店内のモニターには韓国人が踊る動画が流れ、それに合わせて力なく踊っている。
もっともN氏のように30、20年前のアンヘレスの文化を知っている人からすると変貌した街にガッカリだろう。しかし、今、初めてアンヘレスを訪れた日本人にとっては韓流置屋スタイルのほうが面倒な交渉事がなく日本人には気楽かもしれない。
フィリピンを訪れる日本人は2018年に60万人を越えた。同年の韓国人の統計は見つけることはできないが、2016年に100万人を越えたという韓国メディアの情報があるので、日本人の2倍ほどの韓国人がフィリピンを訪れていると思われる。