日本でもNetflixで話題となっている韓国ドラマ
日本でもNetflixで話題となっている韓国ドラマ
日韓関係は過去最悪と言えるほど冷え込んでいる中で、それとは裏腹に日本で韓国ドラマ「愛の不時着」が大人気となっている。
愛の不時着は、「パラグライダー中に事故で38度線を越えて北朝鮮に不時着してしまった韓国の財閥令嬢ユン・セリ(ソン・イェジン)。そこで出会った堅物の将校リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)の家で身分を隠して暮らす」というラブストーリー。
韓国では2020年2月までケーブルテレビで放送され、異例の高視聴率で歴代1位の快挙となった。
また、動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」で全16話の配信が開始されて以来、6月11日現在も日本の視聴数ランキングではトップ10以内をキープしている。
元レスリング選手の吉田沙保里氏や女優の桐谷美玲氏、元大阪府知事の橋下徹氏など多数の著名人も高評価を伝えている。
視聴した人から話を聞くと、「普段は恋愛要素に重点が置かれる韓国ドラマを毛嫌いしていたが、この作品はありがちなラブロマンスではないし、サスペンス要素もあって楽しめた」(30代男性)、「『南北分断』について考えたこともなかったが、ドラマを通して分断国家という不自然な状況について考えるようになった」(20代女性)という感想が寄せられた。
ドラマは実際の事件をモチーフ
さて、この「パラグライダーで誤って軍事境界線を越えた」という設定だが、「韓国女優のチョン・ヤン氏の遭難事件からインスピレーションを得た」と製作側が明かしている。
この事件は、2008年9月にチョン・ヤン氏数名が乗ったレジャーボートが気象悪化により漂流し、誤って北朝鮮海域に侵入したものである。
チョン・ヤン氏らは見知らぬ海岸に到着して現地住民に仁川方面への航路を尋ねたところ、状況を理解した現地住民から「すぐに(韓国に)戻りなさい」と言われた。北朝鮮特有のなまりから、彼女らはそこが北朝鮮であることに気づき、急いで韓国方面に向けてボートを進めたが、北朝鮮の警備艦に見つかって警告放送と銃撃を受けたのである。
幸いにも、ドラマとは異なりチョン・ヤン氏らは何とか警備隊の追尾から逃れ、韓国海軍に救助されている。
北朝鮮側は虚偽と捏造に満ちた荒唐無稽で不純極まりないと反発
同作が日韓で人気を集める一方で、北朝鮮の対外向けウェブサイト「わが民族同士(朝鮮語版)」は3月4日、韓国のドラマや映画を批判する内容を掲載した。
作品名は明示されていないが、タイミング的に愛の不時着や映画「白頭山」について言及していると考えられる。
その内容は、「最近南朝鮮当局と映画製作会社が虚偽と捏造に満ちた荒唐無稽で不純極まりない反共和国映画やテレビドラマを流し、謀略宣伝に積極的に乗り出している」、「嘆くべき民族分裂の悲劇を金儲けの手段として使っている」と強く非難するものである。
北朝鮮は「フィクションにしても限度がある」と厳しく断じており、北朝鮮の描き方などについて不服がある様子である。
一方、韓国でも、保守系政党「基督自由党」が今年1月に「愛の不時着は北朝鮮を美化し扇動している」として国家保安法違反で警察に告発している。
その後の続報はないが、南北ともに北朝鮮の描写について思うところがあるようだ。
愛の不時着で描かれている北朝鮮のリアル度は?
愛の不時着で描かれている北朝鮮のリアル度は?
では実際のところ、ドラマでは北朝鮮事情をどの程度、再現しているのだろうか。
制作にあたっては、スタッフが多方面で情報収集を行い、複数の脱北者たちからも協力を得たことが明らかにされている。
制作に協力したうちの1人である「脱北者ユーチューバー」のカン・ナラ氏は、電気事情やキムチの保管の仕方など、「ドラマで描かれている北朝鮮の60%は事実である」と取材に答えている。
また、同じく脱北者ユーチューバーとして知られるハン・ソンイ氏は、本作品を解説する動画の中で、「ドラマ的な演出は多いが、北朝鮮の生活としてはリアリティを感じられる場面が多かった」と評価した。
北朝鮮に住んでいた脱北者らの経験をもとにしていることもあり、北朝鮮の生活はリアルに描かれているようだ。
一方、身も蓋もないことだが、南北分断線(38度線)を容易に超えることや、侵入者が北朝鮮の村に潜伏することはほぼ不可能と脱北者らは口をそろえて断言している。その他にも現実的ではないシーンもあるが、このあたりはストーリーの展開として仕方ないと言える。
このようにフィクションではあるものの、どこかリアルさを感じられる。そのような作品の作りこみが大ヒットの一要因なのかもしれない。
ぜひこの作品をきっかけに南北分断について関心が広がることに期待したい。
ちなみに、ドラマには北朝鮮出身女優のキム・アラ氏や、脱北者ユーチューバーであるユン・ソルミ氏が出演している。
『愛の不時着』予告編 – Netflix
八島有佑