自由経済のはずの南で配給制導入“ヤミマスク摘発相次ぐ”。北朝鮮は指導者がつけず“韓国製マスク使用発覚で騒ぎ”
「マスクはいったいいつになったら買えるんだ」
そうイライラしている人も多いだろう。遅きに失したが、日本では今月15日からマスクの転売は禁止されており、店によっては1人あたりの販売数も制限されている。さらに政府の指令で増産も始まった。それでもどこにも見当たらない。
マスクが感染防止にどこまで効果があるかは色々な説があるものの、少なくとも十分に供給できれば、国民の心を安定させる効果はあるはずだ。今回は、韓国と北朝鮮で起きている「マスク大乱」の現状を探った。
マスク配給制を始めた韓国
韓国は日本よりマスク着用が徹底している。地下鉄に乗れば、乗客は、ほぼ100パーセントマスクをしている。そもそも文在寅大統領も、移動する際にはマスクを欠かさない。政府の重要な会議でも、参加者はマスクをしている。日本とは危機感が違う。
当然だろう。やや落ち着きをみせているとはいえ、3月20日現在で感染者は8565人、死亡者は91人に達している。4月15日には国会議員選挙も控えている。ここで封じ込めに失敗すれば選挙結果に跳ね返るだけに、政府与党は緊張を強いられている。
そこで導入されたのが不足しているマスクを、政府が配給する制度だ。自由経済の国が始めたこの異例な制度は、3月9日から始まった。
「マスク5部制」と呼ばれる。生まれた年号の末尾によって、特定の曜日に薬局でマスクを購入できる。
販売者は購入者の身分証を確認し、購入履歴をチェックした上で販売する。外国人の場合、健康保険証と外国人登録証の提示が必要だ。1人当たり1週間に2枚購入でき、1枚あたり1500ウオン(約130円)となっている。
ヤミマスクあと立たず
ヤミマスクあと立たず
韓国でもマスクは不足気味で、こういった配給マスクだけではとても足りない。
このため、“ヤミマスク”があとを絶たない。ソウル郊外の天安では、マスク生産工場に勤務するタイ人8人が逮捕された。8人は、マスク工場で不良品として弾かれたマスクを密かに持ち出し、インターネットを通じて販売していた。
輸入した粗悪品に性能の高いマスクに認められる「KF94」認証を受けたと偽り、広告を出した販売業者も逮捕された。
さらには、取り締まる警察でも不祥事が起きた。ソウルの広津区にある警察署では、なんと職員の1人が警察署の倉庫に忍び込みマスク13枚を持ち出した。監視カメラの映像から「犯行」が判明し、この職員は役職を解かれた。
(続く)
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。