新型肺炎を警戒。人の移動・交流を絶ち徹底した新型コロナウイルス対策

新型肺炎を警戒。人の移動・交流を絶ち徹底した新型コロナウイルス対策

新型肺炎対策で中露との国際列車・空路を停止した北朝鮮

 世界各国で新型コロナウイルスによる肺炎対策が進む中、とりわけ北朝鮮は1月22日に中国からの観光客の受け入れを全面停止して以降、様々な対策措置に取り組んでいる。

 まず、中国とロシアからの航空便と鉄道の運行を停止し、韓国との交流窓口である開城の南北共同連絡事務所も一時閉鎖するなど、国境を閉鎖して入国を制限している。さらに、北朝鮮への入国者に対しては数週間の隔離措置を実施するとしており、対策が徹底されている。

 国内対策としては、北朝鮮メディアは連日のように新型コロナウイルスについて報道し、人民に手洗いやマスク着用など予防を徹底するよう伝えている。マスクの大量生産が進められていると報道されていることから、日本と同様にマスクが品薄になっているのかもしれない。

 ちなみに、これまで北朝鮮では洗って繰り返し使用する布製のマスクが主流であったが、今後はこれを契機に使い捨てのマスクが使われるようになるかもしれない。

北朝鮮はSARS・エボラ出血熱・MERSと過去にも感染症対策で入国制限を実施

 北朝鮮が感染症対策で入国制限を行うのはこれが初めてではない。

 2003年に中国広東省で発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)が大流行したときには、外国人観光ツアーを約3か月間停止している。

 2014年から2015年にかけてエボラ出血熱が猛威をふるったころには、観光客の受け入れを約4か月間停止した。加えて、北朝鮮への入国者に対しては、自国民であるか外国人であるかを問わず21日間の隔離措置がとられた。党幹部であった金永南最高人民会議常任委員長(当時)でさえその例外ではなく、アフリカ歴訪から帰国した際には同じように隔離されたと言われている。

 2015年にMERS(中東呼吸器症候群)が韓国で大流行したときには、北朝鮮の外交官と海外労働者が数か月間帰国することを禁止されたと伝えられている。

 いずれも強力なウイルスを国内に流入させないためにとられた水際対策である。

 このように見ると、今回の新型コロナウイルス対策はエボラ出血熱対策と同水準もしくはそれ以上であることが分かる。

新型コロナウイルス・肺炎対策措置を長期戦覚悟で継続

 北朝鮮は過去最高レベルで新型コロナウイルス対策措置を徹底しているが、その反面、今後、北朝鮮の国家戦略に大きな影響が出ると予想される。

 国連制裁が続く中、外貨獲得につながる貿易や観光などが停止する状況が長期化すればするほど北朝鮮経済にとって大打撃となるのは間違いない。特に貿易最大相手国である中国との交流が途絶えるのは痛手である。

 また、外交面でも、外交官などの往来が制限されることになれば米朝交渉などにも影響が及ぶことになる。そうなると制裁解除も遠のいてしまい、結局経済にとってマイナスに働く。

 北朝鮮も過去に入国制限措置をとった時の経験からそのようなリスクは理解しているだろう。

 その上で、自国の医療や防疫システムの限界点を考え、経済や外交を優先していては取り返しのつかないことになるという判断から今回対策措置に踏み切ったとみられる。

 北朝鮮は、新型肺炎感染の危険性がなくなるまで「国家非常防疫体制」を継続するとしており、2月1日付けの『労働新聞』では、「(感染予防を)他のすべての事業に優先」させると表明するなど、長期戦を覚悟している。

 実際、一度強力なウイルスが国内に流入してしまえば肺炎感染者の拡大に歯止めがかからなくなるリスクが高い。北朝鮮の医療レベルを考えると、北朝鮮にとっては現時点における最善策であったと言える。
 

八島 有佑

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