新年の辞の代わりとなった党中央委員会第7期第5回総会報告
新年の辞の代わりとなった党中央委員会第7期第5回総会報告
毎年1月1日に発表される「新年の辞」は1年間の施政方針演説であることから北朝鮮内外で注目されているが、今年は金正恩委員長の就任後初めて新年の辞が発表されなかった。
その代わり、『労働新聞』は昨年12月28日から31日までの4日間にわたって開催された党中央委員会第7期第5回総会について伝えている。
実質的に党中央委員会総会の報告が新年の辞の役割を担ったとみられるが、その報告はどのようなものだったのか。
康成銀朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長に党中央委員会総会の報告内容について見解を伺った。
柱は米朝交渉と北朝鮮国内情勢
Q 党中央委員会第7期第5回総会のポイントはどこでしょうか。
総会の4つの議案のうち、金正恩委員長は第1議題の「醸成された対内外形勢の下で我々の当面の闘争方向について」という議案を7時間もかけて報告を行った。この報告は大きく2つに分けることができると考えられる。1つ目は朝米交渉、2つ目は朝鮮経済を始めとする国内情勢である。
Q まず1つ目の米朝関係について教えてください。
昨年の朝米交渉について、米国の「本心」は、対話を掲げながらも「制裁を引き続き維持して我々の力を次第に消耗、弱化させること」が目的であったと指摘している。その上で、朝鮮としては、米国に対し安易な妥協を行うことはあり得ないとし、「朝米間のこう着状態は不可避的に長期性を帯びる」という判断を示した。さらには、「抑制された発展の代価をきれいに全部払わせるための衝撃的な実際の行動に移る」可能性について言及している。
Q では2つ目の北朝鮮国内情勢についてはどのような言及がなされていますか。
「米国との長期的対立を予告する当面の現情勢は、我々が今後も敵対勢力との制裁の中で生きていかなければならないことを既定事実化し、各方面で内部の力を強化することを切実に求めている」と指摘している。それを前提に、「自立更生」に基づいて、「我らの前進を妨げるあらゆる難関を正面突破戦によって切り抜けていこう」というスローガンを打ち出した。
この「正面突破戦」は、今回の総会のキーワードの1つであるが、その基本戦線は経済部門であるとしている。
具体的には優先的に解決すべき問題は、経済活動体系と秩序を合理的に整備することであるとし、内閣の役割を強化する方法を示した。
また、経済管理における不必要な手順と制度を整理する問題など経済発展に関する課題の解決策に言及している。
さらに、金属を始め人民経済の主要工業部門や農業、科学、教育、保健事業などの課題を具体的に提起しており、量より質を重視するという「先質後量の原則」を挙げた。
なお、金正恩委員長は、総会後の最初の現地指導として、農業部門である「順天燐肥料工場」建設現場を訪れている。これは、「正面突破戦の基本戦線は経済戦線」であり、「農業戦線は正面突破戦の主な打撃前方」だと強調した内容を具現したものと見ることができる。
Q そのほか「正面突破戦」についてどのような方針が示されていますか。
正面突破戦遂行の一環として、外交、軍事、党指導力の問題を取り上げている。特に、軍事の問題にスペースを割いており、「世界は遠からず、朝鮮民主主義人民共和国が保有することになる新しい戦略武器を目撃する」と予告している。
「新しい戦略武器」について詳細は明かされていないが、この正面突破戦が2019年新年の辞で示唆されていた「新しい道」であると考えてよいだろう。
Q 北朝鮮は、米朝交渉の期限を2019年末と設定したものの進展がなく、2020年の米朝交渉がどうなるかについて注目が集まっています。総会報告では、「朝米間のこう着状態は不可避的に長期性を帯びる」と交渉を継続する可能性にも言及していますが、対米方針についてどのようなことが読み取れますか。
今回の総会では、朝米交渉を継続するという方針は示していないものの、交渉の「余地」を残した発言を行っている。
たとえば、「米国の対朝鮮敵視が撤回され、朝鮮半島に恒久的で強固な平和体制が構築されるときまで国家安全のための必須的で先決的な戦略兵器の開発を中断することなく引き続き粘り強く行っていく」という部分である。この発言の含意は、米国が朝鮮敵視政策を撤回し、朝鮮半島の平和構築プロセスが進行する状況になれば、朝鮮としては戦略武器開発を再考する用意がある、ということだ。
その点は、「我々の抑止力強化の幅と深度は米国の今後の対朝鮮の立場によって調整される」とも表現している。このことから、ボールは米国にあるのであり、朝鮮からは妥協をはじめ行動はしないという姿勢が読み取れる。
ただ、朝鮮からすれば、トランプ大統領が次の大統領選で再選されることは、民主党候補が大統領になるよりまだましであることは間違いない。そのため、朝鮮がトランプ大統領の米国内での立場を不利にし、朝米交渉の道を閉ざすような行動をとる可能性は低いとみられる。
韓国については言及なし。2020年の南北関係はどうなるのか?
Q 今回の総会では対外関係について米国以外には言及がなく、韓国や中国、ロシアなどについては触れていません。これをどのように捉えればいいでしょうか。
今回の総会では対米交渉に重きを置いたのであり、中国やロシアに言及がないことをもって関係に変化があったと考えるべきではないだろう。
ただ、韓国を非難しなかったこと自体に大きな意味がある。韓国に言及すれば、朝鮮半島問題の当事者として板門店宣言と平壌共同宣言を履行すべきなのに、いまだ米国と歩調を合わせている韓国の姿勢を非難せざるをえない。そのため、今回、韓国に対して一切言及、非難しなかったことで北南対話の余地を残したとみることができる。
その一方で、文在寅大統領は、1月7日の新年の辞で、「米朝対話の成功のため努力するとともに、南北協力を一層強化していく現実的な方策を模索する必要性がさらに切実に求められている」と述べている。南北鉄道および道路の連結、2032年オリンピック南北共同開催などを訴えているものの具体的な内容は何もなく、開城公団や金剛山観光再開の実践方案に関する言及はなかった。結局、北南対話と朝米対話を同時並行的に進めようとする昨年までの韓国の立場に変化がないことが分かる。
しかし、私は朝鮮半島をめぐる問題は朝鮮と米国だけではく、韓国も含めて3者で話し合いを進めていかなければ解決できないと考えている。韓国が米国に歩調を合わせることなく、独自的に半島問題の解決に向けて動き出せば道は開かれるだろう。
康成銀氏
1950年大阪生まれ。1973年朝鮮大学校歴史地理学部卒業。朝鮮大学校地理学部長、図書館長、副学長を歴任。現在は朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長を務めている。
八島 有佑