アメリカ・ビーガン特別代表が国務省副長官に任命される
アメリカ・ビーガン特別代表が国務省副長官に任命される
10月5日、スウェーデンのストックホルムで非核化をめぐる米朝の実務協議が行われた。米国側は、ビーガン北朝鮮担当特別代表が、北朝鮮側からは金明吉首席代表が出席し、協議は8時間半におよんだが、結果は「物別れ」に終わっている。
その後、米朝交渉に動きは見られず、北朝鮮がミサイルの発射を続ける中、10月31日にビーガン特別代表が国務省副長官に指名された。北朝鮮問題を扱ってきたビーガン特別代表を国務省副長官に起用したことは、トランプ大統領が今後、米朝交渉の比重をさらに高めるためとも考えられる。
北朝鮮は、米朝交渉の期限を2019年末に設定しているが、果たしてそれまでに動きはあるのだろうか。最近の情勢について近現代史専門家である康成銀氏(朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長)に見解を伺った。
トランプ大統領も米朝交渉は失敗できない?北朝鮮は米国の出方を待っている状況
Q 米朝交渉はハノイ会談以降こう着状態にあります。
朝鮮は、昨年6月のシンガポール合意に基づいてやるべきことをやっており、あとは米国の出方を待っている状況である。米国は今年2月のハノイ会談や10月の実務協議ではシンガポール合意に反した行動をとり、何も新しいプランを用意してこなかったため、交渉を前進させることができなかった。米国は制裁解除などの措置をとる前に朝鮮に先行して非核化を進めることを求めているがこれはあり得ない。
朝鮮の態度は一貫しており、米国が制裁を解除し国交を正常化すれば、それと同時的に非核化を実現させるとしている。
Q 北朝鮮は米国の出方を待っている状況ですが、これに米国はどのように応えるのでしょうか。
トランプ大統領は、対朝鮮交渉の実現は自分の功績であると自画自賛しており、大統領選挙に向けた資産でもある。今後2つの方向を考えることができる。
1つは現状のまま大統領選挙を迎えることである。しかし、朝鮮は今年末までに変化がなければ新しい行動に出ると公言しており、トランプ大統領にとって資産を失うことにつながる。そのため、2つ目には、今後、米国は朝米交渉を進めるために何らかの踏み込んだ決断を下す可能性がある。ビーガン特別代表が国務省副長官に指名されたことも、朝米交渉を動かそうとするトランプ大統領の意志の表れだと考えられる。
そうでなければ、ビーガン特別代表を国務省副長官に起用する意味がない。トランプ大統領にとっても朝米交渉が前進すれば次の大統領選挙の大きな功績になるため、朝米関係を大変重視しており、今後、何らかの動きを見せると考えられる。
北朝鮮が韓国・文在寅大統領に期待しているもの
Q 南北関係はしばらく悪化したままになっています。
朝鮮は、文在寅大統領に朝鮮半島問題の当事者として板門店宣言と平壌共同宣言の誠実な履行を求めている。しかし、いまだ韓国は米国と歩調を合わせようとしている。
先月、金正恩委員長は金剛山を視察した際、韓国が建てた観光施設を撤去し、自国で新たに施設を建設する指示を出した。これを受け、韓国側は実務協議の開催を提案したが、朝鮮はこれを拒否して書面交換だけで合意することを要求している。
この動きは朝鮮の覚悟の表れであり、これを受け韓国がどのように行動するのかが問われているとも言える。板門店宣言は北南間の合意であり、この取り決めに基づいて行動することについて米国は関係ない。北南問題は民族問題であり、北南で解決していかなければならない。
Q 文在寅大統領の母親が10月29日に死去した際、金正恩委員長が弔意文を送付しました。現在の南北関係から考えると意外という声もありますが。
文在寅大統領の母親が亡くなったことと政治では次元が違う問題である。朝鮮側が韓国や文在寅大統領を非難しているのは、あくまで朝鮮半島問題で米国の目を気にして一歩踏み出さないでいることである。文在寅大統領個人そのものを否定しているわけではないし、文在寅大統領を悪い人だとは誰も考えていないと思う。
韓国内でチョ・グク前法相の問題が起きた際も、朝鮮側はこれについて「韓国政府は腐敗している」などといった非難はしていない。これは南朝鮮内部の問題であるからである。
トランプ大統領が打つ次の手。11月中の動きに注目
北朝鮮にとっても米国にとっても米朝交渉が重要なものであるのは間違いない。康氏が述べたとおり、トランプ大統領にとっても朝鮮問題は大きな資産となりうるものであり、今後こう着状態を打破するために何らかの方策を打ち出す可能性はある。
北朝鮮が米朝交渉の期限を今年末と区切っていることから、米朝交渉は11月中に大きな局面を迎えるかもしれない。
康成銀朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長 プロフィール
1950年大阪生まれ。1973年朝鮮大学校歴史地理学部卒業。朝鮮大学校歴史地理学部長、図書館長、副学長を歴任。現在は朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長を務めている。
八島 有佑