過去最悪の日韓関係。どうなる日本と韓国?
過去最悪の日韓関係。どうなる日本と韓国?
だんだん本質から離れ、メンツの張り合いになってきた日本と韓国との関係について、韓国を代表する日本通、朴喆煕(パク・チョルヒ)ソウル大学国際大学院教授の講演(7月30日)を聞く機会があった。
過去にも日韓間は冷却した時期があったが、今はコミュニケーションのパイプが細くなり、改善の手がかりがつかめなくなっていると指摘した。一方で、韓国の独立記念日(8月15日、光復節)を過ぎれば、交渉が可能になるだろうとも語った。
細る日韓のパイプ
朴教授は、この2か月間、東京大学の招聘を受けて日本に滞在し、東大の学内で講演などを行ってきた。
まず、現在の日韓関係の問題点として、朴教授は3点を挙げた。
1、過去には、日韓両国に政治家の重鎮がいて、関係悪化を食い止めたが、今はそういう人がいない。日韓の国会議員で組織する「議員連盟」の影響力も低下している。
2、日韓双方とも、「自分が正しく、相手が悪い」という2元論で相手を見ている。外交や政治は、法律だけでは語れない部分があることを認識すべきだ。
3、日韓とも、相手の国の存在を軽く見過ぎている。関係が壊れると大変なことになるという危機感に欠けている。
と指摘した。
構造的に、紛争が起きやすくなっているということだろう。
徴用工判決への受け止めの違い
さらに摩擦直接の原因となっている、2018年10月の韓国大法院の判決についても、日韓で受け止めの違いが大きいと説明した。
この判決は、戦時中徴用された韓国人に対して、日本企業に慰謝料の支払いを求めるものだ。
日本側は、この問題は1965年の日韓請求権協定で「解決済み」とし、韓国側は、「一種の民事訴訟であり、行政が関与できない」(朴教授)と考えている。
さらに双方のメディアが、相手国を「単純化している」とも強調した。耳の痛い話だが、たとえば、韓国全体が反日化しているとか、文在寅大統領のやることはすべて間違っているといった報道だ。
朴教授は、韓国側のメディアにも「日本人は、植民地支配への謝罪も反省もない」といった一面的な報道が見受けられると述べた。
こういった決めつけが、国民感情をさらに煽っているのは事実だろう。
「このままでは、日韓双方ともルーズ、ルーズ(負け、負け)に終わってしまう」と警告した。
「日韓関係は、いつか回復させないと行けない。それなのに、今のように激しく対立したら、国民感情が簡単には直らなくなってしまう。心のケアを考えるべきだ」と朴教授は注文をつけた。私も同感だ。
8月から日韓が協議も
ちょうど、この講演が行われた直後、米国が日韓に対して仲裁案を提示したと報じられた。現状のままにするという申し合わせをするという簡単なものだが、これでも冷静さを取り戻す効果はあるだろう。
朴教授は「まだ韓国政府内の意見がまとまっていない」との見方を示し、8月以降、より具体的な解決案がまとまり、日本側に提示される、との考えを示した。
日本との対立で、政府与党への支持率が上がっている。韓国では来年総選挙があり、これを利用したい人もいるというが、「そこまでは対立を引っ張れない」(朴教授)。
日本側の動きが止まる今月下旬をメドに、韓国側は、日韓の企業と韓国政府が出資した基金を作って元徴用工の救済に当たる、といった解決案を提示するだろう、と述べた。
そして、双方が協議し意見が接近した段階で、米国の仲介を受ければ、合意が見いだせるのではないかと展望した。長年日韓を見ているだけに、説得力のある分析だった。
朴 喆煕 (パク・チョルヒ)
1963年忠清北道忠州出身 ソウル大学政治学科卒、同大学大学院修士課程修了。1991年から米国コロンビア大学大学院に留学。日本の政治を研究。韓国外務省外交安保研究院准教授を経て、ソウル大学国際大学院教授・副院長、同大日本研究所長を歴任した。著書に『代議士のつくられ方―小選挙区の選挙戦略』(文春新書)がある。
朴教授の講演と質疑の映像は、日本記者クラブのホームページに掲載されている。
「朝鮮半島の今を知る」(31) 朴喆煕・ソウル大学国際大学院教授 2019.7.30
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。