一晩で10万円以上散財する平壌の赤い貴族の実態を伝え昨年のベストセラーとなった『平壌資本主義百科全書』
韓国の主要紙である『東亜日報』で、北朝鮮関係の記事を書いているチュ・ソンハ記者の活動に、注目している。北朝鮮で、最高学府の金日成大学を卒業後、2003年に韓国に来て、北朝鮮に関する数々の本を書いている人だ。
彼は昨年から今年にかけて、2冊の本を書いている。1冊は『平壌資本主義百科全書』、もう1冊は『朝鮮レボリューション』で、2029年の北朝鮮をシュミレーションしている。
最初の本は、首都・平壌の富裕層の生活を多方面から紹介している。昨年9月に発売され、3週間ベストセラーの上位に食い込んでいた。日本語版を出す予定はないという。
ソウルに住む著者を訪ね、話を聞いてみた。
「この本は、平壌にいる3人と連絡を取り合って書いたもの。昨年9月までの状況をできるだけ反映させている」と話した。
これから3回に分けて、本の内容をインタビューも交え、順次紹介していこう。
外食に100ドル使うのは普通
平壌に住む新しい富裕層「赤い貴族たち」の生活実態を詳細に記しているのが最大のウリだ。偶然知り合った朝鮮労働党の高位幹部の息子から聞いた話だという。
北朝鮮の上位0.01%にいる富裕層は、1日1回は外食し、100ドル(約1万1000円)程度は平気で使う。
週末になれば、高麗ホテルの向かいにある蒼光宿所という場所に行く。
ここは在日帰国者が経営しており、最新式のバーのほか、按摩、サウナが完備している。ここで友人たちと朝方まで遊び、1000ユーロを使い果たすという。日本円で12万程度。酒では「サントリー・オールド」が人気らしい。
高級な品物をそろえた楽園百貨店では、シャネルが人気を集める。靴なら、「ナイキ」、「フィラ」、日本の「ミズノ」も好まれる。
北朝鮮へ密輸されるポッカの缶コーヒー
飲み物では、何と「ポッカ」の缶コーヒーを愛好する人が多い。日本は北朝鮮への輸出に厳しく目を光らせているが、まずはシンガポールかマレーシアを経由して中国に持ち込まれ、平壌に運ばれる。
チュ記者によれば、北朝鮮では、質がいい割りに価格が安い日本製の時計や楽器に人気が出ている。
金持ちと見られるために、愛人を囲っているケースもあり、10万ドル(約1100万円)程度のアパートを用意し、海外のブランド品を買い与えることもするそうだ。
チュ記者は、「実は今、北朝鮮は外貨危機に陥っている。国際的な制裁のため外貨が不足しているのが理由で、モノも不足しはじめており、核を放棄する代価に経済援助を受ける道しか残っていない」と、北朝鮮の変化を予想している。
次回は、北朝鮮式資本主義の最大の取引対象であるアパートの発展ぶりや部家の価格について書きたい。
(続く)
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。
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