12.26韓国と北朝鮮の鉄道・道路がつながる
12.26韓国と北朝鮮の鉄道・道路がつながる
12月26日、北朝鮮と韓国の鉄道・道路を連結する事業の着工式が北朝鮮の板門駅で開かれた。鉄道・道路の連結事業は、金正恩朝鮮労働党委員長と文在寅韓国大統領が、南北関係の改善を目指して今年9月の首脳会談で合意したことの1つである。
北朝鮮に対する経済制裁が続く中、今後の工事着手の目途は立っていないものの、南北融和ムードを印象づける式典であったと言える。
今回の着工式や南北関係の展望について、長年、朝鮮近現代史を研究している康成銀朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長に話を聞いた。
Q 今回の着工式および南北間の鉄道・道路連結事業をどのようにみていますか。
両首脳の合意から今回の式典まで、非常にスピード感がある。国の「動脈」である鉄道・道路が北南間でつながるということは非常に意味のあることである。もっとも重要なのは、鉄道・道路がつながることで、人の往来が可能となり、交流が進むことである。
Q ただ、現在国連制裁が続く中では、鉄道・道路の連結事業など経済協力を進めることは難しいとする見方が大半です。現時点で学術交流や文化交流は進められないのでしょうか。
国連制裁により、北南間で人の行き来や、資料の交換に制限があるため、学術交流も簡単に進めることはできない。文化交流も同様である。
今後の南北学術交流。将来は朝鮮大学校で国際シンポジウム?
Q 康先生としては、今後学術交流をどのように進めていこうと考えていますか。
将来的には、朝鮮大学校で、北南の代表団や日本、海外の研究者などを集めてシンポジウムを開催したいと考えている。現在は制裁により、共和国の代表団は日本を訪れることはできないが、いつか必ず実現させたい。
Q 朝鮮大学校で開催することはできませんが、現在でも第3国であれば開催できるのではないですか。
それは可能で、実際に今年6月、中国の延辺大学で国際シンポジウムが開かれ、朝大や共和国の社会科学院、南、日本の研究者などが集まり、多岐に渡る分野について議論が交わされた。
ただ、私としては、朝鮮大学校でシンポジウムを開くということに大きな意味があると考えている。
Q それはどういうことでしょうか。
朝鮮大学校は、共和国唯一の海外大学であるばかりか、北南、海外同胞を含む民族の財産、全朝鮮人の誇りでもある。また、日本にとっても、朝鮮大学校で民族教育の権利を認めるかどうかというのは、日本の国際化や民主化の試金石にもなっている。そのような朝鮮大学校でシンポジウムを開くことに大きな意義がある。
統一はあるとき突然なされず徐々に進んでいくもの。朝鮮半島統一はもう始まっている
Q 南北融和ムードが進むにつれて、「南北統一がなされる場合、『連邦制』か『連合制』か」という議論もなされていますが、どのようにお考えですか。
現時点で、連邦制か連合制かという議論はあまり意味を持たない。
Q それはなぜでしょう。北朝鮮側が連邦制案の歴史的経緯も含めて教えてください。
共和国の連邦制案は、金日成主席が1980年10月に開催された第6回朝鮮労働党大会で発表した「高麗民主連邦共和国創立方案」に始まる。北南双方の制度を認め、両者が同等に参加する統一政府を組織し、そのもとで地域自治制を実施するというもので、1国家2制度がとられる。ここでは、外交権と軍事権は中央政府が握るとされた。
この方針は後に修正される。1989年4月、文益煥牧師(記者注 韓国の統一運動指導者、1918年6月1日~1994年1月18日)は、金日成主席との会談で、「将来は連邦制に移行するが、当面、外交権と軍事権は地域政府が持つべき」であると主張した。その際、金日成主席は、「検討する価値がある」旨を述べているが、1991年の新年の辞では、「地域政府により多くの権限を付与する」との認識を示し、文益煥牧師の案を事実上受け入れた。
2000年の南北首脳会談(金正日総書記・金大中大統領会談)において合意された「6.15南北共同宣言」では、統一案として、共和国側が主張する「低い段階の連邦制」案と、南側の主張する連合制案の間には共通点があるとして、今後、この方向で統一を志向していくこととされた。
統一についてはこのような議論がなされてきたわけだが、現時点で連邦制か連合制か、その答えを出す必要はないと考えている。今、重要なのは、すぐに制度的な統一を目指すのではなく、政治、経済、軍事、文化など様々な分野で交流を深め、統一を段階的に進めていくことである。統一はあるとき突然なされるものではなく、徐々に進んでいくものである。統一はもう始まっている。
2018年は朝鮮半島にとって激動の年であり、長年敵対していた北朝鮮と韓国はともに歩み始め、友好関係を構築している。国連安保理の対北制裁などといった障壁はあるものの、ともに可能性を模索し、今回の着工式にいたった。南北関係がどのように進展していくのかはまだ分からないが、康先生が話していたとおり、「統一はもう始まっている」のかもしれない。
2019年も北朝鮮をめぐる情勢がどのように変化していくか目が離せない年となるだろう。
康成銀朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長
1950年大阪生まれ。1973年朝鮮大学校歴史地理学部卒業。朝鮮大学校歴史地理学部長・図書館長・副学長を歴任。現在は朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長を務めている。
八島有佑