「りしょうばん」や「きんにっせい」とかつては日本語読みしていた韓国・北朝鮮人名
「りしょうばん」や「きんにっせい」とかつては日本語読みしていた韓国・北朝鮮人名
前回、北朝鮮はいつから北朝鮮と呼ばれるようになったをお伝えしたが、今回は、韓国・北朝鮮人の名前はいつから韓国語・朝鮮語読みで表記されるようになったからを振り返ってみたい。
これまた40代以上の人なら、たとえば、高校の日本史の授業で「李承晩ライン」を「りしょうばんらいん」と習った思う。同じく、「金日成主席」は、「きんにつせいしゅせき」だったし、後に大統領となり韓国人初にして唯一のノーベル賞を受賞する金大中元大統領は、1973年(昭和48)に東京で拉致された事件、いわゆる「金大中事件」は、「きんだいちゅうじけん」と習った記憶があると思うが、1998年の大統領就任時は、「キム・デジュンだいとうりょう」と読むようになっている。
21世に入り2000年代に大ブームとなった韓流ブームは、韓国式に「はん」と呼び、「冬のソナタ」で日本の中年女性ファンを熱狂させたヨン様こと、ペ・ヨンジュンやチェ・ジュウになると漢字名がなくカタカナのみで呼ばれるようになっている。ちなみに、ペ・ヨンジュンさんを漢字にすると、裵勇浚となり、もはやヨン様ど同一人物とは誰も認識しない状態になってしまう。
韓国人名は1980年代後半から。北朝鮮人名は90年代前半からそれぞれ現地発音で呼び始める
韓国人名は1980年代後半から。北朝鮮人名は90年代前半からそれぞれ現地発音で呼び始める
韓国人の名前(正確には地名もそうだが)を日本語の読み方ではなく、韓国語の読み方で呼んだり、表記したりようになったのは、1980年代後半からとなる。原因の1つと言われるのは、北九州の在日韓国人牧師で活動家の男性が自身の名前の読み方を日本語の読み方で取り上げられたことに対して「NHK」を相手に起こした裁判の判決にあるとされる。訴訟は1975年、最高裁の判決が出たのが1988年で、NHKはこのときのトラウマがあるのか、現在、主要メディアで唯一韓国人名や北朝鮮人名をカタカナのみで表記して報じている。
韓国人の名前を韓国語発音で呼び始めた後に、北朝鮮人名も朝鮮語発音で呼ぶようになり現在にいたる。両国には多少タイムラグがあり、国交はないが北朝鮮人の名前を朝鮮語で呼ぶことが定着したのは90年代前半で、日本国内の朝鮮総連などの諸団体の働きかけも影響したと考えられる。
そのため、現在活躍する北朝鮮研究者の多くが、「金日成(きんにっせい)」、「金正日(きんしょうにち)」と習い研究活動をしてきた。金正日総書記が最高指導者になったころには、「キム・ジョンイル」総書記と呼ばれていたのため、学者の中には、いまだにキム・ジョンイルと一瞬出てこない人もいるくらいだ。
一方、2011年に最高指導者となった「金正恩委員長」あたりは、当初から「キム・ジョンウンいいんちょう」と呼ばれており、「きんしょううん」とは呼ばれていない。
今では「MS-IME」や「ATOK」などの日本語変換ソフトは、きむじょんいるで金正日と漢字変換されるほど一般化している。さらに変換を試していくと、ぼくせいき→朴正熙、きんにっせい→金日成と変換されるが、きんしょううんでは変換されない。ここには韓国人や北朝鮮人の呼び方の歴史が関係しており実に興味深い。