国から餌代がもらえないので返すとは…
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が韓国の文在寅(ムン・ジェイン)前大統領に贈った2匹の犬の扱いを巡って、文氏と現政権の間で摩擦が起こっている。
犬は、文前大統領が退任後も引き続き梁山(ヤンサン)の私邸で飼っていたが、11月5日、文氏側が突然、政府に返したいという意向を表明、8日には実際に送り返した。
これについて保守系メディアと与党関係者は、「文前大統領が国から餌代がもらえないからといって『縁組』していた犬を『離縁』した」と言って批判している。
金正恩氏の置き土産が、韓国に時ならぬ政争の種をまいた形だ。
「愛犬家」文在寅が育てていた豊山犬
問題になっているは、北朝鮮原産の豊山(プンサン)犬、ソンガンイとコミ。
2018年9月に平壌で開かれた南北首脳会談に際し、金総書記が文大統領に贈ったものだ。
他国の元首から大統領に贈られた品は、大統領ではなく国家に帰属する。
2匹の犬もまた国家の所有物だったが、文大統領が愛犬家だったこともあり、任期中は元々いた2匹の犬、1匹の猫と一緒に青瓦台(大統領府)で飼っていた。
その後、メスのコミは2回出産し、計13匹の子犬を産んだ。
うち12匹は希望する自治体に譲り渡されたが、2度目に生まれた1匹(タウニ)は文大統領の手元に置かれていた。
2度目の出産について文大統領は「父親はマルだ」と発表し、南北融和を演出した。
マルはもともと文大統領が飼っていた豊山犬である。
動植物についての法的な規定なし
文大統領の退任時期が近づくと、3匹の犬の扱いを巡り問題が生じた。
大統領が任期中に贈られたものは、法律によって大統領記録物として大統領記録館に保管されるが、動植物については法的な規定がなかったからだ。
そのため、文政権は退任間際の2022年3月、「大統領記録物管理に関する法律施行令」を改訂し、「贈り物が動植物である場合、他の機関に移管・管理させることができる」という条項を追加した。
その上で尹錫悦(ユン・ソンニョル)次期大統領との引き継ぎの際、3匹の犬を自分が飼い続けたいと申し出、尹大統領も「今まで飼っていた人が引き続き世話をするほうがよい」と快く応じた。
現政権は、先の施行令を6月に再改定し、委託先に「個人」を加え、さらに「委託料に関する予算支援措置」を講じることを約束したという。
犬2匹の飼育に月26万円!
ところが、施行令は改定されなかった。
報道によれば、予定されていた委託料は月250万ウォン(約26万円)。内訳は餌代35万ウォン、医療費15万ウォン、人件費200万ウォン。犬の散歩で月約20万円というのは高すぎるようにも思えるが…。
これに対し、尹政権内部では「自分が希望して連れて行ったのに、国民の血税を使う必要があるのか」「文大統領はすでに十分な待遇を受けているではないか」という反対が出たため改定が見送られたという。
文前大統領は現在、法令に基づいて大統領在職時の報酬の95%(約150万円)を国家から受け取り、さらに必要な身辺警護、秘書3人、運転手1人がつけられ、交通費、通信費、家族を含めた医療費を国が負担している。
犬鍋 浩(いぬなべ ひろし)
1961年東京生まれ。1996年~2007年、韓国ソウルに居住。帰国後も市井のコリアンウォッチャーとして自身のブログで発信を続けている。
犬鍋のヨロマル漫談