事故を政権批判につなげる共に民主党
156人の若者が亡くなった梨泰院雑踏事故の後、1週間の国家哀悼期間が明け、この事故を政権批判へつなげようとする野党共に民主党の動きが活発化している。
韓国では過去、大きな事故が起きるたびに政権批判がわき上がってきたが、最優先すべきは事故原因の究明と再発防止策を考えることのはずだ。
今、韓国では、それとはまったく違う惨事を政争の具にする動きが起こっている。それはまさに韓国の悪癖と言えるものだ。
大統領選のライバル李在明も「人災」と批判
政権批判は、早くも事件の翌日、10月30日に始まった。
共に民主党の南英姫(ナム・ヨンヒ)民主研究院副院長は、自身のフェイスブックで梨泰院の事故を大統領府移転に結びつけて批判した。「梨泰院惨事は大統領府移転のために起きた人災」「原因は警護要員が竜山(ヨンサン)の大統領府に集中したせい」と書いたのだ。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、就任と同時に大統領府をそれまでの青瓦台から国防省が置かれていた竜山に移転した。
だが、この書き込みには根拠も示されておらず、国民の批判も殺到したためすぐに削除された。
するとその2日後、今度は共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表が議員総会で、事故を「明白な人災で、政府の無能による惨事だ」と批判した。李在明氏は3月の大統領選挙尹錫悦候補に僅差で敗れ、今は最大野党の代表を務めている。
朴槿恵大統領弾劾につながったセウォル号沈没事故
韓国ではこれまで、大きな事故が起きるたびに政権批判に利用されてきた歴史がある。
典型的なのが2014年4月、修学旅行中の高校生など約300人が死亡したセウォル号沈没事故だ。
この事故では、直後の救助活動に不手際があったことに加え、当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領が事故発生後7時間にわたって所在不明だったことが大問題になった。
この時ネット上には「空白の7時間」に朴槿恵大統領が「シャーマニズムの祈禱(きとう)していた」「美容整形手術を受けていた」「アンチエイジング(老化防止)の注射をしていた」などという噂(うわさ)が広がり、韓国メディアも競って報道した。
これらの情報のほとんどは単なる憶測にすぎなかったのだが、事故の後、朴大統領の支持率が急落した。
実際に朴大統領が罷免されたのは事故後2年以上経ってからだが、事故が朴大統領の失脚の遠因になったのは間違いない。
次の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が 2017年3月、セウォル号沈没事故犠牲者の芳名録に「君たちの魂が1000万のろうそくになった。申し訳ない。ありがとう」と記したのがその証左である。
犬鍋 浩(いぬなべ ひろし)
1961年東京生まれ。1996年~2007年、韓国ソウルに居住。帰国後も市井のコリアンウォッチャーとして自身のブログで発信を続けている。
犬鍋のヨロマル漫談