「梨泰院惨事」で悲嘆に暮れる韓国

「梨泰院惨事」で悲嘆に暮れる韓国

2022年5月に開業したレゴランド・コリアリゾート 出典 レゴランド・コリアリゾート公式サイト

「梨泰院惨事」で悲嘆に暮れる韓国

 ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)で起きた150人あまりが圧死するという大惨事で、韓国は沈痛な雰囲気に包まれている。

 各地のハロウィーン行事が中止になったほか、11月5日まで国家哀悼期間に入り、K-POPのコンサートやイベントが軒並み中止となり、テレビも通常のバラエティー番組や音楽番組の放送を取りやめている。

 江原道(カンウォンド)春川(チュンチョン)にある「レゴランド・コリアリゾート」も予定していたハロウィーンイベントをこの事故を受けて急きょ、中止した。

 春川と言えば、往年の韓国ドラマファンには懐かしい「冬のソナタ」の舞台であり、川と湖の街として知られる。

 その湖の真ん中にある中州の島に、今年5月にオープンしたのがレゴランド・コリアリゾートで、「韓国初の世界ブランドのテーマパーク」と持てはやされた。

 ホテルを併設したレゴランド・リゾートは、名古屋市の金城ふ頭(2018年開業)にもあるが、韓国のは日本より規模(面積)が大きいという。

 ところが、5月の開園直後に、アトラクションのジェットコースターや空中観覧車が何度も緊急停止する事故を起したほか、入場料や駐車場代が高いなどの不満が出て、人気は今ひとつ。

 「年間200万人」という集客目標は、開園当初の5月は13万人だったが、6月には10万人、7月には7万人と減り続け、目標を大きく下回った。

優良格付け債権がデフォルト

 今、韓国では、このレゴランド・コリアリゾートが別な意味で名前を知られることになった。

 9月末に償還期限を迎えた2000億ウォン(約210億円)の企業手形の不渡りを出し、これにより「レゴランド事態」と呼ばれるほど、韓国金融界を揺るがす信用不安の震源地となってしまったからだ。

 企業手形は、地元自治体の江原道が債務保証し、「A1」という優良格付けを持つ資産流動化企業手形(ABCP)だった。

 しかし、自治体が保証した債券まで安全でないという話に投資心理が急速に冷え込み、金融市場はたちまち目詰まりを起したと言われる。

資金調達できずに投資計画を撤回する大企業も

資金調達できずに投資計画を撤回する大企業も

レゴランド・コリアリゾートがある中州の島とを結ぶ春川大橋(著者撮影)

 KBSニュースなどによると、信用格付けが高いと言われる韓国電力やLGユープラス、ハンファソリューションズといった企業は、先月、社債を発行したが、一部が売れ残り、資金調達を完成することができなかった。

 現代建設やロッテ建設など大手建設会社が関わっていた首都圏の大規模再開発事業でも、プロジェクト融資のためのローンの「借り換え」(リファイナンス)に失敗し、大手建設会社が自社の中で資金を用意するはめになったという。

 レゴランドのデフォルト=債務不履行をきっかけにして、韓国経済全体に対する先行き不安も高まった影響で、大企業も資金繰りがさらに厳しくなると予想されることから、投資計画の縮小も相次いでいる。

 SKハイニックスやハンファソリューションズ、現代オイルバンクは、投資計画を撤回したほか、現代自動車も流動性確保のため、今年の投資を3000億ウォン(約315億円)に減らす方針を発表した。

 LG電子やSKグループでは、インフレやウォン安も重なって、原材料価格が上昇する一方で、需要は減り、企業収益も減少すると見込まれることから、社内に危機対応チームを作り、対策に乗り出しているという。

 野党「共に民主党」は、いわゆる、レゴランド事態について、現政権の経済金融政策の無能ぶり無策ぶりを表わしていると批判したが、そもそもレゴランドに債務保証を与えたのは、地元江原道の共に民主党所属の前知事だったことは、まったく触れない。

償還期限を迎える債権は来年上半期が本番

 ところで、来年上半期までに償還満期を迎えるプロジェクト融資とABCPは、90兆ウォン(8兆5000億円)規模にのぼると言われ、レゴランド事態と同様に、債券市場の投資心理が凍りついて、借り換えに失敗するなど資金調達が困難になる事態は、むしろこれからが本番とも言われる。

 国際金融協会(IIF)が最近発表した「世界債務報告書」によれば、企業債務の対国内総生産(GDP)比率では、韓国は香港、シンガポール、中国に次いで世界4位。その増加スピードはベトナムに次いで2位だった。

 一方、家計債務がGDPを超える国は、主要国の中では韓国だけだった。

 何かと借金まみれの韓国だが、不安定な国際経済の中で、その先行きには目が離せない。

小須田 秀幸(こすだ ひでゆき)
NHK香港支局長として1989~91年、1999~2003年駐在。訳書に許家屯『香港回収工作 上』、『香港回収工作 下』、パーシー・クラドック『中国との格闘―あるイギリス外交官の回想』(いずれも筑摩書房)。2019年から2022年8月までKBSワールドラジオ日本語放送で日本向けニュースの校閲を担当。「ノッポさんの歴史ぶらり旅」をKBS日本語放送のウェブサイトとYouTubeで発表している。

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