韓国・尹錫悦政権発足から半年、改善進まぬ日韓関係

韓国・尹錫悦政権発足から半年、改善進まぬ日韓関係

膠着状態が続く日韓関係 出典 C.Suthorn [Public domain], via Wikimedia Commons

 今年5月に韓国で尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が出帆してから半年が経とうとしているが、日韓関係改善は遅々として進んでいない。

 最も大きな障壁は、いわゆる徴用工問題である。

 2018年10月、韓国の大法院(最高裁)は、被告の新日鉄住金に対し、原告4人へ1人あたり1億ウォン(約1000万円)の損害賠償支払いを命じた。

 この判決に対し日本政府は激しく反発。「徴用工問題は1965年の日韓請求権協定で解決済み」という立場で一貫し、韓国に対して「国内での解決」を図るように求めている。

 日韓関係改善を望む尹錫悦政権は、日本企業が賠償金を支払わなくて済む形の解決策を模索し、いくつかのルートで日本政府に打診を続けているが、日本政府には安易に政治的な妥協に踏み切れない理由がある。

慰安婦問題の交渉では日韓双方が反省

 徴用工と並ぶもう1つの懸案が慰安婦問題である。慰安婦問題を巡っては、日韓双方に苦い思い出がある。

 2015年12月、日本政府は、韓国の朴槿恵(パク・クネ)政権との間で「慰安婦問題に関する日韓合意」をまとめた。合意の当事者は現首相の岸田文雄外務大臣(当時)。

 しかし、韓国では、「被害者の合意なしに政府が一方的に進めた」として、慰安婦支援団体などが反発。次の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、合意を事実上白紙に戻した。

 尹政権は、この反省を踏まえ、徴用工問題に関して被害者とのコミュニケーションを重視し、「官民協議会」を4回にわたって行った。

 被害者の意向を最大限に反映して日本と協議したい意向だ。

「河野談話」を慰安婦強制連行の証拠と言い続ける韓国

 一方、日本にとっての慰安婦問題を巡る苦い経験とは、河野洋平官房長官(当時)が1993年に出した「慰安婦問題についての談話」である。

 この談話において、日本政府は韓国政府との間で政治的妥協を図り、この問題に幕引きを図ろうとした。

 河野官房長官は談話の中で、慰安婦たちの募集において「官憲等が直接これに加担したこともあった」こと、「慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」という内容を盛り込んだ。

 すると韓国は、これを「日本政府が慰安婦強制連行を認めたもの」と都合よく解釈し、以後、ことあるごとに「河野談話」を慰安婦強制連行の証拠として利用してきたのである。

 実は、談話を出す前に日本政府が行った調査において、慰安婦強制連行を裏付ける証言は得られていなかった。

 2007年、当時の安倍内閣(第1次)は「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」とする政府答弁書を閣議決定した。

 しかし、これは後の祭りである。

 「日本の官憲による慰安婦強制連行」は韓国において既成事実化し、慰安婦支援団体が「さらなる謝罪と賠償」を求めて、要求をエスカレートさせる根拠となった。

徴用工被害者は日本企業の資金拠出と謝罪を求める

 韓国側は徴用工問題に関し、韓国側で財団を作り日本企業が払うべき賠償金を肩代わりする案をまとめつつあると伝えられているが、被害者側は、「あくまでも日本企業の資金拠出と謝罪」が不可欠と主張している。

 しかし、日本企業の基金への拠出と謝罪は、事実上、韓国の裁判所の判決を認めることになる。

 今回の判決には、単に徴用工問題にとどまらず、戦後の日韓関係を揺るがしかねない内容が含まれている。

 判決の趣旨は、「日本の植民地支配は不法だったのだから、その期間に韓国民が受けた苦痛に関して日本には慰謝料を支払う責任があり、植民地支配の不法性を認めていない1965年の請求権協定で解決したことにはならない」というものだ。

安易な妥協は河野談話の二の舞になる

 もし、今回の徴用工裁判で、日本が判決を認めるニュアンスの政治的妥協を図れば、かつての河野談話の時のように、「日本が植民地支配の不法性を認めた」ことの証拠とされ、植民地時代のあらゆる問題について、次々に賠償要求が提起されるという事態を招きかねないのだ。

 日本政府が徴用工問題でかたくなな姿勢を取り続ける裏には、慰安婦問題での河野談話の二の舞を演じまいとする岸田首相の強い意志があると思われる。

犬鍋 浩(いぬなべ ひろし)
1961年東京生まれ。1996年~2007年、韓国ソウルに居住。帰国後も市井のコリアンウォッチャーとして自身のブログで発信を続けている。
犬鍋のヨロマル漫談

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