新型コロナウイルスの流行によって中国で大規模な都市封鎖が行われた影響などで、若者の海外進学先として台湾に注目が集まっている。
4年間で生活費を含めても350万円程度で収まり、奨学金も豊富に用意されていることも影響しているようだ。
日本でも高校段階で台湾留進学のプログラムを組み、アピールする学校も増えている。
「日本1ユニークな学校」
「日本1ユニークな高校に生まれ変わりました」
長崎県佐世保市にあり、甲子園に6回の出場歴を誇る佐世保実業(後藤三世子理事長)の学校紹介のパンフレットだ。同校は2022年度から、思い切った改革に踏み切った。
英語、中国語、プログラミング言語を同時に習得できると謳い、台湾の樹徳科技大学(高雄市)と提携し、「希望者全員が入学できる」とPRしたのだ。
「本校には普通科のほか、実業系の学科もあります。大学進学者も増えていますが、ほとんどが九州内の大学でした。これからは世界で生き抜く力が必要です。経済発展を遂げている中国語が欠かせないと考えました」と中村浩校長は振り返る。
台湾の大学と提携したのは、安定した社会環境、学費の安さ、英語と中国語が同時に学べる大学のプログラム、台湾人が基本的に親日であることに魅力を感じたからだ。
台湾進学保証で差別化図る
少子化で、高校も生徒の奪い合いが始まっている。生き残るため、海外の大学への進学をキーワードに他の学校と差別化したいという思いもあった。
台湾進学専門家の協力を得ながら、1年間準備した。すでに台湾から中国語の先生を招いて教えてもらっているが、「授業に対する姿勢がとても真面目で、感謝しています」と中村校長は言う。「生徒たちはタピオカ飲料などで台湾に親近感を持っており、台湾のことも意外というのか、よく知っていました」
22年度に入学した生徒の中には、10人ほど樹徳科技大学への進学希望者がいるという。「今後は、一定数の卒業生を台湾に送っていきたい」と「台湾進学」に期待を込めた。
日本よりいい治安、授業料年間50万円
台湾の実践大学(台北市)に通う福田さん(女性)は、台湾の実践大学に通って3年になる。国際企業管理を学んでいる。授業はすべて英語。日本でも最近増えてきた、オールイングリッシュの授業だ。
福田さんは、もともと海外留学に関心を持っていたが、費用がかかるため迷っていた。そんな時、友人に誘われて留学の説明会に参加、年間の授業料が50万円前後で済むと聞き、台湾行きを決めた。
米国なら、授業料だけで年間少なくとも350万円。日本で1年の授業料が50万円程度なのは、国立大学以外ない。
最初は、「中国語が話せるようになればいいな」程度の軽い気持ちだった。日本でも中国語を学んでいったが、現地では言葉が出てこず、授業にもついていけなかった。
大学の2年生になって、ようやく先生の言っていることが十分理解できるようになったという。
「まず現地の人たちが優しい。治安は、日本より良いくらいです。困った時に助けてくれる人が多い。他の国より手軽で安いので、留学先としてお勧めです」(福田さん)
ハーバード大の語学研修は北京から台湾へ
米国の大学の中には、中国の大学との提携関係を解消して、台湾で中国語の研修を行うところも出てきた。
米国の名門大学ハーバード大学もその1つ。夏期休暇中に、学生60人を対象に8週間かけて行っている中国語プログラムを、2022年から台湾に移転すると発表した。
ハーバード大学は、これまで17年間にわたって北京語言大学と提携関係を結び、毎年60人の学生を送り、語学だけでなく、北京での文化体験もさせてきた。
しかし、大学側が、米国からの留学生の自由を束縛するような行動に出ているとして、今後は学生を送らないことを決めたという。米中間の摩擦が影響した形だ。
毎年1万人以上の米留学生受け入れ
台湾の教育省(文科省に相当)によると、台湾では10の大学が、米国の21大学と、中国語教育パートナーシップを結んでいるという。毎年1万人以上の留学生が学んでいる。
米中対立の激化を受けて、短期留学先を台湾に変える動きに今後拍車がかかりそうだ。
お隣の韓国は、中国へ留学、進学する若者が毎年5万人近くおり、米国に次ぐ人気だ。その韓国でも、安定した民主主義国家である台湾を選ぶ動きが出ているという。
「台湾留学サポートセンター」(茨城県守谷市)は、佐世保実業も含め日本国内の200校以上の高校と台湾の大学を結び、毎年350人ほどの学生を送り出してきた。
コロナ禍でさらに脚光
安蒜順子センター長は、40年近く台湾とのビジネスに携わり、台湾の大学に広い人脈を持つ。
台湾進学のメリットについて、1、世界3大言語(中国語、英語、プログラミング言語)が身に付く 2、試験は書類審査のみで100%合格保証 3、交換留学やダブルディグリー等の制度が充実 4、生活費が経済的で、学費も世界1安い 5、メンタルが鍛えられ、忍耐力や柔軟性が養われるとアピールする。
「コロナ禍で収入が減る中、台湾進学はますます注目を浴びるはず。台湾の大学のメリットを、これからも伝えていきたい」と話した。
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)、『金正恩が表舞台から消える日: 北朝鮮 水面下の権力闘争』(平凡社、2021年)など、近著『日本で治療薬が買えなくなる日』(宝島社、2022年)
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