“お墨付き”を与える
中国共産党機関紙の環球時報が、英国のトラス首相辞任ニュースを報じた。
中国SNS微博(ウェイボー)へ20日午後10時34分(日本時間)の投稿では、4734件のいいね、1350件が転送、1249件のコメントが書き込まれている。
しかし、表示されているコメントは3件しかない。削除率は約99.76%となる。
英国やトラス首相は批判したい。「だけど、お前ら意見するなよ」という中国政府の意思表示なのであろうか。
投稿内容は、「英スカイニュースによると、トラス首相が辞任を発表しようとしている。辞任が本当であれば、トラスは英国史上最短の首相になるだろう」と短く報じ、英国史上最短在位の首相というハッシュタグを付けている。
官製メディアである環球時報が報じたことで、“お墨付き”が与えられたことになる。
このタグを付けて民間メディアやインフルエンサーが、次々と投稿して英国やトラス首相の個人批判から民主主義の批判などが展開されている。
反中人物で王室軽視とトラス首相を個人批判
写真付きで辞任の背景も伝えた同じく中国共産党機関紙である中国日報の投稿には、71424件のいいね、10690件のコメントが確認できる。
しかし、こちらも65件のコメントしか表示されておらず強烈に検閲されたとみられる。削除率は約99.39%。
「トラス首相は、香港国家安全法を批判し、同盟国と台湾を守ると発言するなど過去に中国へ内政干渉を繰り返した反中人物である。そんな人物だからエリザベス女王へ謁見するときも非常に無礼な態度だった」など過去の中国に批判的だった言動や政治信条から、強引に王室軽視まで結びつけて個人批判するインフルエンサー投稿も複数確認できる。
これら一連の投稿には選挙についての言及がない。削除されたか、目を光らせる中国政府へ忖度して自主的に控えているのだろう。
事実上、普通選挙がない多くの中国人は、大統領制と議院内閣制の違いも理解できていない。言葉としては知っていても、実体験が1949年の建国以来1度もないからだ。
民主主義批判に隠された意図は?
現在、開催中の中国共産党の党大会直前に北京で掲示された普通選挙を求め、独裁を批判する横断幕と同じ文言が、中国各地でゲリラ的に掲示されていることは、徹底的に封じ込められている。
また、英BBCが映像で世界へ配信した英中部マンチェスターの中国領事館での暴行事件の現場にも同じ文言の横断幕が掲げられていた。
「欧米・西式の民主主義は、欠陥制度で機能不全である。不安定な政権は、国民を不幸にする。大切な生命や安全が守れない」と官製メディアは主張する。
この主張の裏には、相対的に中国式社会主義(中国こそが真の民主主義であるとの主張もみられる)は優れていると国内へアピールしたい狙いがありそうだ。
書き込んだコメントの99%以上が削除される現状を良識ある中国人はどう感じているのだろうか。
すでに半ば諦めムードも漂っている。