戦後復興の先例として

戦後復興の先例として

ウクライナは韓国を復興のロールモデルに? 出典 ウォロディミル・ゼレンスキー公式インスタグラム

 「ウクライナの教科書に『漢江の奇跡』が掲載される」と、9月21日の朝鮮中央日報日本語版が報じている。

 それによれば、ウクライナの教育科学省が教科書記述指針を変更し、高校の地理や歴史の教科書で韓国に関する内容を盛り込むことを決めたということだ。

 地理の教科書には、アジア金融の中心地の1つであるソウル、有数の港湾都市である釜山などを載せて、韓国の発展ぶりが紹介される。

 さらに、歴史の教科書では、朝鮮戦争の荒廃した国土を回復させ、発展の基礎を築いた「漢江の奇跡」について解説されるのだとか。

 ロシア軍の侵攻で多くの街が破壊されたウクライナは、戦争が終結しても復興には、かなりの苦労を強いられることが予想される。

 そこで、学ぶべきは韓国の前例。

 戦禍からわずか半世紀で奇跡の復興を遂げた事実には、学ぶべきことが多いはず。教科書に韓国のことを載せるのもその姿勢の現れ…と、自尊心をくすぐられているようなのだが。

かつては北朝鮮よりも貧しい世界最貧国

かつては北朝鮮よりも貧しい世界最貧国

1960年~2007年の韓国GDP。横軸は10億ドル単位なので1000は1兆ドルとなる 出典 Lakshmix [Public domain], via Wikimedia Commons

かつては北朝鮮よりも貧しい世界最貧国

 ウクライナが学ぼうとしている漢江の奇跡とは、1960年代末頃から70年代にかけての急速な経済成長を指して言う言葉だ。

 1964年の韓国は、1人あたりの国民所得が米ドル換算で85ドル。日本の630ドルにははるかに及ばず、175ドルの台湾と比べて半分以下。タイやマレーシアなど東南アジア諸国でも100ドルを超えており、北朝鮮よりも貧しい世界最貧国の1つに数えられていた。

 1963年に大統領就任した朴正煕(パク・チョンヒ)は、この状況を打開するために、外国からの援助や国家予算の大半を投じる大胆な経済政策を断行。

 戦争で疲弊したインフラを整備し国内産業を育成することで、農業主体の最貧国から輸出主導型の工業国への脱却を図ろうとする。

 当時の国際情勢もそれに味方した。ベトナム戦争の激化で物資の需要が増大している。

 それに加えて、米国に従い派兵した韓国には、米政府から輸入規制を緩和する恩恵が与えられ、製品を造ればいくらでも売れる状況に。輸出が堅調に伸びてゆく。

 その結果、1960年は3282万ドルだった輸出実績が、1977年には100億ドルを突破。80年代に台湾、シンガポール、香港とともに「アジア四小龍」と呼ばれる新興工業国の一翼を担う発展の礎を築かれた。

プーチンなら奇跡が起こせるかも?

プーチンなら奇跡が起こせるかも?

ソウル中心部を流れる漢江の夜景

 が、それは国民にかなりの痛みを強いる発展でもある。

 福祉をはじめ国民が必要とする予算を大幅に削っただけではない。日韓請求権協定で日本から得た有償・無償8億ドルにもなる援助金の大半も、国内産業育成のために使った。

 そこには、戦時徴用工の未払い賃金や慰安婦への見舞金なども含まれていたのだが。それをもらうべき人々に支払われることはなかった。

 これが普通の民主国家であれば、国民の反発を受けて政権が転覆する事態にもなりかねない。

 しかし、当時の韓国は軍事クーデターで成立した独裁国家。朴大統領に逆らう者は粛清される。誰も逆らえなかった…。

 プーチンのようなこわもてのリーダーが、強権をふるって達成された奇跡なのだ。

 果たして、ゼレンスキー大統領に朴正煕やプーチンのようなまねができるだろうか。

 漢江の奇跡に学ぼうとするのならば、「独裁者」として歴史に汚名を残す覚悟が必要かもしれない。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社)、近著『明治維新の収支決算報告』(彩図社、2022年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。

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