北朝鮮に2つの野党が存在複数政党制の国実は民主的…なのか!?

8つの政党が合法的に活動する中国

複数政党制の国だった北朝鮮

　9月20日に北朝鮮の朝鮮中央通信が、朝鮮社会民主党の野党党首である朴容日（パク・ヨンイル）氏が死去したことを報じた。

　北朝鮮で朝鮮労働党の他にも政党が存在していたことに驚かされる…。

　ロシア革命を起こしたレーニンは、ブルジョワジーの権力組織を認めず。その思想によって、他の野党をすべて非合法化した共産党による1党独裁のソビエト連邦が建国された。

　その後に生まれた社会主義陣営の国々も、ソ連に習った1党独裁体制と思っていたが。調べてみると、それは大きな勘違い。

　例外が多々見つかる。たとえば、中国も、国の統治は中国共産党が独裁しているが、8つの政党が合法的に認められている。

　野党は閣外協力のような形で政治参加し、中国共産党に意見や要望を伝えているという。

　さらには、中国と同じように北朝鮮でも複数政党制が採用されていた。

　民主主義が機能しているということをアピールするために、野党の存在が許されているようだ。

　朝鮮社会民主党は、日本の植民地支配から開放された1945年に平壌で結党された。

　党委員長に就任した曺晩植（チョ・マンシク）は、非暴力・不服従による独立運動を提唱して「朝鮮のガンジー」とも呼ばれた人物。

　平壌のキリスト教会指導者でもあったことから、初期の頃は党員にも多くのキリスト教信者がいたという。

　1948年に米軍が駐留する半島南部で総選挙が実施されると、候補を送り込んで議席を獲得している。

　1961年に政権を掌握した朴正煕（パク・チョンヒ）大統領が、すべての政党を解散させたことで韓国内の勢力は消滅。

　しかし、北朝鮮では朝鮮労働党の傘下に組み込まれて生き残り、1981年に現在の朝鮮社会民主党に改称している。　

　北朝鮮には、李氏朝鮮時代の宗教団体・東学（天道教）の流れをくむ天道教青友党などの野党も存在するが、朝鮮社会民主党は、最高人民会議では607議席中50議席を占めて野党第1党になっている。

朴容日氏出典大韓民国統一省 GettyImages [Public domain], via Wikimedia Commons

　朝鮮社会民主党創設者の曺晩植は、博愛を唱える宗教家だった。現在も人権保護に熱心なリベラルな党風だという。

　日本の野党第1党とも似た感じだが、北朝鮮の憲法には、「すべての機関は朝鮮労働党の指導のもとに活動を行う」という規定がある。

　与党の意向には逆らえず、何を言われようが首を縦に振るしかない。議会では日本の野党第1党以上に存在感が薄そう。

　しかし、60年代まで韓国で分派の政党が存在し、韓国には人脈を持っている。それを駆使した対南外交でそれなりの働きをしているようだ。

　亡くなった党首の朴容日氏も、祖国平和統一委員会副委員長の職に就き、南北交流の実務に関わってきた。

　南北の赤十字会談や閣僚級会談にも北朝鮮代表として出席しており、韓国側にもよく知られた人物だった。

　それだけに、まだ50代の若さで突然の訃報。

　死因については公表されておらず、色々な憶測する者もいたようだが…。

　金正恩（キム・ジョンウン）総書記が「深い哀悼の意」を表しているので、粛清されたわけではなさそうだ。

青山誠（あおやままこと）
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』（角川文庫）、『太平洋戦争の収支決算報告』（彩図社）、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』（双葉社新書）、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』（彩図社）、近著『明治維新の収支決算報告』（彩図社、2022年）。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。