ポーランドの演説が韓国で話題に

ポーランドの演説が韓国で話題に

カチンスキ氏(中央)とゼレンスキー大統領(右から2人目)。左から2人目はマテウシュ・モラヴィエツキポーランド首相 出典 President.gov.ua [Public domain], via Wikimedia Commons

 9月1日は、ドイツ軍がポーランドに侵攻して第2次世界大戦が起きた日。

 ポーランドでは、大戦勃発83周年式典が催され、政権与党「法と正義」のヤロスワロフ・カチンスキ代表が演説し、

 「ポーランドはナチス・ドイツの侵略で受けた被害の補償を充分にもらっていない」

 と発言して、総額6兆2000億ズウォティ(約183兆円)にもなる賠償金を求めたという。

 このニュースは、すぐに韓国各紙で報道され、韓国のSNSでも話題になった。

 「日本の植民地支配による被害は多大で、日本側が支払った賠償ではまだ不十分」。そう考える韓国民は多い。

 事の成り行き次第では、韓国も漁夫の利が得られることを期待しているようだ。

 もし、ドイツがポーランドの要求に応えるようなことがあれば、徴用工や慰安婦の問題に関しても日本側から譲歩を引き出せるだろう、と。

ドイツ側は「終わった問題」と無視

 ポーランドが要求する183兆円は、2017年に議会が作成した「ナチス・ドイツの占領によるポーランドの被害」から試算したものだという。ドイツの国家予算のほぼ3倍にあたる途方もない金額であり、当然、ドイツ側は拒否。さらに、

 「実質的な賠償はすでに終わっている」

 とも付け加えてコメントしている。

 1953年に旧東ドイツとポーランドを含む東欧諸国との間に賠償免除協定が成立しており、これで賠償問題は解決したということになる。

 また、1990年に統一された東西ドイツは、第2次世界大戦の戦争状態を正式に終了させるドイツ最終規定条約に調印。

 この時、国家間の賠償問題はもはや存在しないことが、ドイツ政府の公式見解として明言された。

 ただし、ドイツでは違法行為を金で償う「賠償」と、与えた損害によって生じる「補償」を分けて考えている。

 1991年には、個別補償条約が関係各国との間で締結され、ポーランドには、これまでに日本円にして1億5000万マルク(約100億円)が支払われた。

 これで法的には賠償も補償もすべて解決。すでに終わった問題なのだが、東ドイツへの賠償放棄は当時のソ連に強制されたことで、本意ではなく無効だという考えが、一部のポーランド国民にはあるようだ。

 ヤロスワロフ・カチンスキ氏によるドイツへの補償要求も、そういった国民感情が背景にあるのだろう。

被害者は誰もが法よりも感情を優先する?

被害者は誰もが法よりも感情を優先する?

今夏、歴史空間へリニューアルされる前のソウル光化門広場(著者撮影)

 どこかで聞いたような話だ。そう、慰安婦問題は、朴槿恵(パク・クネ)政権が勝手に合意したものであり、

 「国民の本意ではないから無効だ」

 という、多くの韓国民の主張と似た感じではある。

 被害者側は法よりも感情を優先し、加害者はそれに従うべきだと考える。それは民族に関係なく人類共通の思考なのだろうか。
 
 ちなみに、ドイツがポーランドに支払った約100億円は、90年代のドイツ国家予算の1%にも満たない額だ。

 一方、日韓請求権協定で日本側が支払った有償・無償・民間借款の合計約8億ドルを当時のレートで円換算すると約2880億円。協定が成立した1965年の国家歳入6兆9991億円の約4%となる。

 韓国とポーランドの被害額が実際どれくらいになるのかはわからない。

 が、両政府が支払った金額だけを比較すると、日本はかなり搾り取られたといった感じが否めない。

 しかも、その後も過去の植民地支配をネタに借款や援助を求められ、最近までその都度に応じてきた。

 国際的な条約や法を根拠に「解決済みの問題」として毅然(きぜん)な態度を取り続けるドイツ政府の姿勢は、日本こそが見習うべきなのかもしれない。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社)、近著『明治維新の収支決算報告』(彩図社、2022年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。

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