申源湜氏が仮想敵国=日本を明かす
2018年の韓国海軍艦艇による自衛隊機へのレーダー照射事件は、日韓の大きな政治問題にまで発展した。
しかし、韓国軍はそれにひるむことなく、事件の2か月後には、強硬姿勢を堅持する方針を決めていたという。
今年8月18日に日本の朝日新聞が、元韓国軍合同参謀本部次長の申源湜(シン・ウォンシク)氏にインタビューしてこの事実は明らかになった。
申氏によれば、2019年2月に韓国軍は、「日哨戒機対応指針」を定めた。その内容は、
「公海上で接近してきた自衛隊機に対し、通信などで2回の警告を行っても応じなかった場合、火器管制レーダーを照射して対抗するように」
と、いうもの。これは他の国々の軍用機には適用せず、あくまで、日本の自衛隊機だけを対象としたものだというから…、韓国軍は、北朝鮮やロシア、中国よりも日本を最も警戒すべき仮想敵国に想定していたということだ。
しかし、それは今に始まったことではない。
日韓関係が悪化するはるか以前から、韓国軍は日本の自衛隊を事実上の仮想敵国軍として、それに対応するための軍備を長年かけて増強してきたのだから。
アメリカを困惑させた韓国軍の軍備増強計画
大韓民国初代大統領・李承晩(イ・スンマン)は、対馬や竹島の領有権を主張し、竹島の不法占拠を実行している。
対馬についても侵攻計画を練っていたと言われる。つまり、韓国建国時から、すでに日本は戦わねばならぬ仮想敵国としてみられていた。竹島には侵攻しているのだから、すでに戦争が始まっているとも考えられないか。
1991年に韓国と北朝鮮は「南北基本合意」に調印し、南北首脳会談も実現。
かつての一色触発の状況から比べると、両国の関係改善は進んだ。韓国軍が仮想敵国・日本を想定した軍備増強が本格化するのはこの頃から。
1994年になると、米国議会でも韓国の日本敵視が問題化するようになった。この年の米国議会で、
「韓国軍は、日本を潜在的脅威と見立てた軍事力増強に傾きすぎている」
と、指摘する議員の発言があり、公聴会が開かれた。当時の米国防長官も、
「韓国は日本を仮想敵として防衛計画を立てている」
事実を認めて、韓国政府に懸念を伝えている。日米韓軍事同盟の盟主である米国にとっても頭の痛い問題だった。
しかし、米国の忠告も韓国には届かず。この後も韓国海軍は、対北戦に不必要な外洋艦隊の創設を目指して大型駆逐艦、潜水艦などの建造を進めている。
竹島再奪還シナリオも作成されていた
韓国には、自衛隊の武力による竹島奪還を警戒する者が多い。
韓国海軍が外洋艦隊の建設を急ぐのも、それを阻止することが大きな目的の1つ。
文在寅(ムン・ジェイン)政権下では、韓国国防省は自衛隊との仮想戦闘シナリオが作成され、韓国国会にその非公開報告を行わせた。
竹島を海上自衛隊が奪還した状況を想定し、F-15K戦闘機やイージス艦、弾道ミサイルなど90年代から韓国軍が準備してきた兵器を総動員して島を再奪還するための作戦を練ったものだという。
今年5月に誕生した尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、前政権下で弱体化した日米韓の軍事同盟を復元強化することを最重要課題と位置づけているのだが、そのためには、準同盟国とも言うべき日本を仮想敵国とする姿勢は改めねばならない。
しかし、発足時から支持率低迷に悩む政権にそれが可能だろうか。
対日戦を意識した韓国軍の軍備補充計画は、90年代の保守政権の時代から始まり、四半世紀も続けられてきた。
もはや「日本と戦うための軍隊」になっているのだから、それを変えるのは容易なことではない。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社)、近著『明治維新の収支決算報告』(彩図社、2022年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。