圧力団体化した在郷軍人会のガス抜き
「ベトナム参戦在郷軍人会」の老兵たちが、ソウル汝矣島(ヨイド)にある韓国公営放送KBS本館前の道路を占拠し、「ベトナム参戦有功者たちを『虐殺犯』だと冒とくするKBSを解体しろ」「KBS社長は退陣せよ」と叫ぶ大集会を開いた。
18日昼過ぎ、全国から集まった老兵たちは少なく見積もって3000人ほど。少し離れた汝矣島公園の道路脇には、彼らが乗ってきた10数台の大型バスが列を作って並んでいた。
KBS前の道路は、ステージ用の大型トラックを横付けにして遮断され、クレーン車でつるされた大型スピーカーから大音量の音楽が流され周辺が騒音に包まれた。
コロナ禍以前なら、週末のソウル中心部ではよく見られた集会風景だが、最近は目にすることはなかった。
彼らは2000年6月にも、左派系新聞「ハンギョレ新聞」本社を迷彩服姿の2000人で包囲し、暴徒化した1部が、社内に乱入して破壊行為や放火を行った上、幹部を監禁、多くの負傷者を出す事件を起している。
今回も1部のメンバーが葬式用の白装束で現れたり、花火を爆発させて大きな爆音と白煙を発生させたりとやりたい放題だった。
この大集会は、在郷軍人会という圧力団体のガス抜きという意味合いが強いとはいえ、警察が簡単に一般道路を閉鎖して集会の許可を出したのも合点がいかない。
裁判で民間人虐殺の目撃証言
現在、ソウル中央地方裁判所では、1968年2月12日、ベトナム中部クアンナム省で韓国軍海兵隊第2旅団(青龍部隊)の兵士らのよって村民79人が殺害された「フォンニィ・フォンニャット事件」を巡り、事件の生存者が韓国政府を相手取った国家賠償請求訴訟の裁判が行われている。
8月9日には、ベトナムから韓国を訪れた被害者側の証人が出廷し、「韓国軍が住民を殺し、村に火をつけて燃やすのを見た」という詳細な目撃証言が行われた。
老兵たちの集会は、この裁判で明らかになった民間人虐殺という事実を伝えたKBSの報道内容に抗議するものだった。
この事件を巡っては、虐殺事件直後に村に入った米軍によって、住民の聞き取り調査が行われ、虐殺や婦女暴行の実態を示す現場写真が撮影され、詳しい報告書としてまとめられている(ウィキペディアに米軍撮影、記録の写真が複数掲載されている。むごたらしいので転載は控える。興味があればご覧いただきたい)。
老兵たちの集会を目にし、彼らの主張を聞いたKBSの若い職員たちは、「これだけの証拠がそろっているにも関わらず、それを否定できると思っている老兵のほうがおかしい」と冷ややかだった。
これぞ歴史歪曲だとの声も聞こえてきそうだ。
小須田 秀幸(こすだ ひでゆき)
NHK香港支局長として1989~91年、1999~2003年駐在。訳書に許家屯『香港回収工作 上』、『香港回収工作 下』、パーシー・クラドック『中国との格闘―あるイギリス外交官の回想』(いずれも筑摩書房)。2019年から現在までKBSワールドラジオ日本語放送で日本向けニュースの校閲を担当。「ノッポさんの歴史ぶらり旅」をKBS日本語放送のウェブサイトとYouTubeで発表している。