増える学生の性犯罪
韓国26大学の参加する全国大学学生会が、7月24日に開催したネットワーク定例会議で性犯罪の予防策について話し合われた。学生会では1か月前にも学生の飲み会などにおける「性暴力対応指針」を配布している。
日本では、90年代末に早稲田大学のインカレサークル「スーパーフリー」による輪姦事件が世を騒がせた。また、最近は“ヤリサー”という言葉が定着するほどにセックス目的のサークルが多く存在し、レイプ事件などが時々起きる。
韓国の大学も同様、学生の性犯罪が近年になって増えているという。
7月19日には仁荷大学で、性暴行が原因の女子大生死亡事件が発生。学生会が予防策に熱心なのは、この事件に衝撃を受けてのことだった。
名門大学で起きた性暴行殺人
仁荷大学は、韓国初代大統領・李承晩(イ・スンマン)の発議で1952年に設立され、仁川市でも随一の伝統を誇る。中でも工学部が有名で、就職に強いことでも知られている。
女子大生の死亡事件は、この大学のキャンパス内で起きた。
警察当局によれば、同大学の男子学生が女子大生を学内の建物に連れ込み性暴行を加え、死に至らしめたとのこと。
死因は建物の3階から落ちたことによるものだが、自ら飛び降りたか、男子大学生に突き落とされたかについては調査中だという。
2人が飲酒していたという情報があり、そのため、学生会が配布した対応指針にも「過度な飲酒はやめる」「酒を飲んだら出歩かない」など、酒に対する注意事項が目立つ。
新型コロナが収束すれば性暴力が増える?
また、識者の間では、大学生全般の飲酒に苦言を呈する意見が多かった。成均館大学社会学科のク・ジョンウ教授は、
「各大学では飲酒に関して、新型コロナ時に不十分だった関連教育や広報をより積極的に行わなければならない」
と、語っている。韓国では、今年4月に新型コロナウイルス感染対策措置が解除されている。学生たちが集まって酒を飲む機会が増えたことで、学生による性犯罪も増えているという。
新型コロナ流行以前は、学生たちの酒にまつわる事件が多く、そのため、大学当局や学生会などが、酒の飲み方などについての注意喚起を再三おこなっていた。
新型コロナ後に大学に入った学生には、その知識や酒への免疫ないだけに、飲酒による暴走が危惧されているようだ。
男女の認識の差が性犯罪を生む
また、大学キャンパスでセクハラや性犯罪が多発するのは、男女の認知感受性の差に大きな原因があるとも考えられている。
韓国女性政策研究院が2020年に実施したアンケート調査によると、「酒に酔って意識のない人と性関係を持つのは性犯罪だ」という項目に、20代女性の99.1%が同意した。が、男性の場合は86.8%と、同世代でも認識にかなり差があることが判明している。
さらに、「男女がキスと愛撫をした場合、性関係に同意したことだ」という項目に同意する20代女性は19.4%だが、男性は過半数の52.7%にもなる。
性犯罪事件が起きた時に、加害者の男性が「相手も合意していた」と主張することは多々ある。それもこの認識の違いによるものだろう。
酒を飲めば認識のハードルはさらに下がり、性犯罪を犯す危険性がより高まってきそう。
韓国の大学では、男女が酒の入ったグラスを持ち、腕を絡ませて酒を飲む「ラブショット」などのゲームが流行っていた。
学生会では、このゲームについても注意を促している。これも認識の違いによる勘違いを防ぐためだ。
日本の男子大学生の認識も似たような感じだろう。また、この2年間は飲みの機会が少なく、経験値の低い学生が増えているだけに…、今後は、韓国と似たような事件が多発する可能性がなきにしもあらず、だ。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社)、近著『明治維新の収支決算報告』(彩図社、2022年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。