北朝鮮より下の日本が4.4%のFDI残高とは?
海外直接投資(FDI)の中でも、外国企業や外国投資家が自国に対して行う直接投資を「対内直接投資」と言う。
外国企業が日本国内で新事業を立ち上げるとか、また、日本企業の発行済み株式総数の10%以上を取得するなどがそれに該当する。
長年にわたり累積した対内直接投資の総額は「FDI残高」と言われ、最近は各国の国内総生産(GDP)に占めるFDI 残高の割合を示すデータが公表されるようになった。
近年では、日本政府も成長戦略の1つの柱として、FDI の増大を目標にしているという。が、まだまだ結果がついてこない。
現在の欧米先進国では、FDI 残高がGDPの20%を越える水準に達しているが、日本は2019年の時点で4.4%と桁違いの低さである。
それは世界196か国の中でも最下位という屈辱的な数字。なんと、国連の経済制裁を受けている北朝鮮よりも順位が下なのだ。
通貨危機後の韓国はFDI 残高が7倍増
バブル景気が弾けた頃、外国企業や外国投資家を「ハゲタカ」などと呼んで警戒する風潮があった。
弱った日本の足元を見て安く買き、企業を乗っ取るのではないか、と。
かつては、他国でも似たような感じで、外国からの投資を警戒していた。しかし、90年代末頃からその風向きが変わる。
外国資本の流入は、経済成長やイノベーションを促すとして歓迎されるようになった。
国内の資本だけでは再生できない企業に対して、政府が海外からの合併・買収(M&A)を積極的に求めること増えている。そのため、どこの国もFDI 残高は、右肩上がりで増え続けているのだ。
たとえば、韓国では通貨危機以前の1998年頃まで、GDPに占めるFDI 残高は2%程度と、日本とさほど変わらなかったのだが。現在はそれが14%にまで増加している。
北朝鮮の場合は、国連の経済制裁下にある国だけに、海外からの投資が韓国のように増えることはない。
投資総額で北朝鮮が日本の上にくることは絶対にありえないのだが…。
しかし、それが「GDPに占める割合」となれば、話は違ってくる。
2019年に公表された北朝鮮のGDPは335億4000ドル(約4兆5300億円)と、日本で1番人口が少ない鳥取県と同レベル。
わずかの投資金額でも、GDPに占める割合はぐんと跳ね上がり、海外投資が伸び悩んでいる日本を抜き去ってしまったというわけだ。
経済制裁下でも海外資金の流入は止まず
では、北朝鮮にどれだけ額の海外資金が流入しているか。詳しく見てみよう。
米国政府の外国向けラジオ放送「ボイス・オブ・アメリカ」では、昔から北朝鮮への直接投資額を毎年推計して発表している。
それによれば、2016年の北朝鮮への直接投資は9300万ドル(約128億円)だったが、制裁が強化された2017年には6300万ドル(約87億円)と、30%以上も減少している。しかし、ゼロになったわけではない。
2017年には米財務省が、国連決議に違反して北朝鮮の核開発を援助している海外企業10社に対し、米国内の資産を凍結するなどの措置を取っている。
この時に名を挙げられた企業のうち5社が石炭や金属材料、金融関連などの中国企業、1社がロシア企業だったという。
北朝鮮とは地続きの中国、ロシアでは監視の目を逃れて商売を続けているようだ。
これは、細々と密貿易をやっているようなもの。だか、そんな状況の北朝鮮にたとえGDPに占める割合とはいえ、下の順位になってしまう日本もどうかと思うのだが…。
外国企業によるM&Aを「日本が乗っ取られる!」と過剰反応するような感覚は、そろそろ改めるべきかもしれない。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社)、近著『明治維新の収支決算報告』(彩図社、2022年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。