各地で「従北」の偏向教育が通報される

各地で「従北」の偏向教育が通報される

6月から観光入国を再開した韓国の旧ソウル駅前(小須田秀幸さん撮影)

 韓国中西部にある世宗市の教育庁(日本の教育委員会に相当)が、市内の中学校で北朝鮮を称賛する偏向教育を行っていたことを7月6日に公表した。

 それによれば、今年3月の授業で、ある教師は北朝鮮の故金日成(キム・イルソン)主席のことを「将軍様」と呼んで、戦前の抗日戦における活躍を称賛。

 また、米国は朝鮮半島を植民地にするために大韓民国を承認したのだと、北朝鮮が繰り返し主張していたのと同様のことを語ったという。

 今年に入ってからソウルや光州でも、教師による偏向教育が行われたという通報が寄せられている。

 最近は、世間もそれを問題視するようになったというのだが…。

 しかし、韓国の教育現場における「従北」は、昨日今日の話ではない。

右派・保守派が危険視する教師の労組

 韓国で民主化運動の激しくなった80年代末に全国教職員労働組合(全教祖)という組織が結成された。

 その結成宣言文には、「ともに立ち上がれ同志よ」とか、共産国家のスローガンのような文言が並ぶ。

 また、朝鮮半島から日米の勢力を駆逐して統一国家を樹立することを目標に掲げているのも、北朝鮮の戦略と合致している。

 民主化後の保守政権では非合法組織だったのだが、1999年に左派・金大中(キム・デジュン)政権がこれを合法化。

 しかし、2013年の朴槿恵(パク・クネ)政権下で再び非合法組織となり、文在寅(ムン・ジェイン)政権末期の2020年に合法労働組合としての地位を回復…と、政権交代の都度、立場は目まぐるしく変わる。

 右派政権からは危険視され、左派政権からは頼りにされていたようだ。

 左派の文在寅大統領が在任した5年間は、全教祖系の教師が授業中に北朝鮮の体制を称賛することは珍しくなかったという。今回のように教育庁に報告が寄せられることも多々あったようだ。

教科書執筆者の68%は左派系学者

 しかし、北朝鮮に融和的な左派は、現場の教師だけではない。各自治体の教育長も近年は左派勢力で占められている。

 朴政権下の2014年の選挙からすでに全国17の自治体で14人の左派系教育長が誕生していたのだ。

 偏向教育の報告があっても、黙殺されることは多かったのかもしれない。

 また、教科書の執筆者にも左派系の学者は多い。

 かつて韓国メディアが調査したところによれば、中高の韓国史教科書に執筆者の68%が左派系だったという。

 文政権下の2020年に発表された検定歴史教科書の執筆基準案からは、「韓国が朝鮮半島唯一の合法政府」という文言がなくなり、北朝鮮の権力世襲制や軍事挑発に関することも削除されている。

 80年代末の民主化で左派が政界に進出したのと同調するように、教育界にも佐派勢力が浸透して勢力を広げた。

 現在の政界や韓国社会では、左右勢力が拮抗しているが、教育界は、すでに左派によって占拠された感がある。

 それだけに、現場で行われる偏向教育も今に始まったことではない。

 だが、政権を奪還した右派・尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領も、このまま黙ってはいないだろう。

 教育現場の監視も厳しくなる。左派政権下では日常的に行われていたような“偏向教育”が摘発されて世を騒がせることも、今後はもっと増えそうな気がする…。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。 

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