パラサイト以来の大ヒット作
5月に公開された韓国映画「犯罪都市2」の通算観客動員数が、早くも1200万人を突破。
2019年の「パラサイト 半地下の家族」以来、3年ぶりに1000万人越えの大ヒット作となった。
6月には米国、カナダ、台湾、モンゴル、香港、シンガポール、インドネシア、カンボジア、タイ、フィリピン、マレーシアの11か国でも上映され韓国映画の世界的知名度アップにも貢献している。
前作「犯罪都市」はソウルで撮影されたが、続編となる今回は、ベトナムのホーチミンが舞台。「海外に世界観を拡張した」というように、企画段階から世界進出を意識していたようだ。
しかし…、その舞台となったベトナムでは、いまだ本作は上映されていない。
配給元のロッテエンターテイメントは、ベトナムでの上映も予定していた。しかし、ベトナムの検閲当局は、暴力的なシーンが多いということでこれを却下したという。
マ・ドンソク&ソン・ソック主演『犯罪都市2』メイン予告編(日本語字幕付き)
ホーチミンを無法都市に描いたことに激怒
主人公の凶悪犯罪担当刑事たちが、ベトナムに逃亡した犯罪者を追跡するというのが映画のストーリー。2007~2010年に起きた様々な事件をもとに話を再構成したものだとか。
当然、暴力シーンはあるし、裏社会の人物も多くも多く登場する。それが「ホーチミンが無法都市のように描かれている」と、ベトナム側の心証を害したようだ。
映画の舞台となった国々から、イメージを損なわれたとして不興を買うのはよくあること。
だが、上映禁止というのはよっぽどだ。「ベトナム当局の過剰とも思える反応は、他にも理由があるのでは?」
韓国とベトナムの過去を考えると、そう思ってしまう人も多いだろう。
加害者には自重が必要だったかも…
加害者には自重が必要だったかも…
まず思い浮かぶのは「ライダイハン」というキーワード。
ベトナム戦争では、韓国軍兵士による強姦が頻発した。それを防止するため、軍では慰安所を設置している。
しかし、終戦後には強姦の被害者や慰安婦たちとの間に生まれた「ライダイハン(韓越混血児)」が多く残されることになった。
これは韓国軍による性犯罪として現代も社会問題となっているのだが、韓国政府は問題解決に消極的。「心からの謝罪」どころか、日本が韓国人慰安婦にしたような程度の謝罪や補償もまだされていない。
それに加えて、近年ではベトナムに進出した韓国企業と現地人従業員との間に、給料の未払いや虐待などがよく話題にもなっている。
ベトナムでもK-POPをはじめとする韓国文化が浸透しているのだが、そういった背景から「K-POPは好きだけど、韓国は嫌い」というベトナム人は多い。
韓国では、いまだに日本映画にJ-POPに否定的な意見が多く、社会的制約によって事実上の“禁止”に近い状況だが。
それに比べると、多くの遺恨を残しながらもベトナム当局は、かなり寛大に韓国文化を受け入れている。
しかし、油断して対応を誤ると、逆鱗に触れて今回のような反応を起こしてしまう。
被害者の恨みはいつまでも残るもの。それは、韓国人自身が一番よく知っていることだろうし…。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。
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『明治維新の収支決算報告』(彩図社)