BTSを守るために兵役法改正?
韓国には徴兵制度があり、韓国人男性は、満20~28歳までに21~24か月の兵役に就くことが義務付けられている。
しかし、オリンピックのメダリストや世界的な芸術コンクール入賞者は、入隊延期や事実上の兵役免除が認められてきた。
BTSが2020年に全米ビルボードチャート1位になる快挙を成し遂げると、K-POPアーティストなど大衆文化への貢献者も対象となる兵役法改正案が成立。これにより満30歳まで入隊を延期できることになった。
この時、最年長メンバーのJINは28歳、入隊の期限が迫っていた。翌年に入隊期限となるメンバーもおり、このままではBTSが活動休止に追い込まれてしまう。K-POP界の至宝を守るための法改正、誰もがそう思った。
そのため、いつしか改正法案は「BTS法」と呼ばれるようになる。
入隊期限の再延長はかなわず…
今年末にJINは満30歳となり、法改正で延長された入隊期限が迫っている。
BTSが活動を続けるには、入隊期限再延長や兵役免除などを可能とするさらなる法改正が必要になるが…。韓国政府がそれをやるべきか。
ファンはもちろんそれを望む。しかし、一般韓国人、特に若い男性の間では“有名人特権”への反発が強く、賛否両論の激しい議論になっていた。
ついに6月24日、この問題について結論が下される。
韓国兵務庁の李基植(イ・ギシク)長官は、記者団からの「BTSも兵役問題に対する立場はそのままなのか?」という質問にも「そうだ」と明言。
さらなる兵役法改正を行わないという方針を示し、騒動には、一応の終止符が打たれている。
また、その10日前の6月14日にユーチューブチャンネルでBTSメンバーが「今後、しばらくソロ活動に専念する」と涙ながらに語っていた。
ファンはそれを「解散か?」と誤解して大騒ぎしたが、これもJINの軍隊入隊が避けられないことを悟り、活動内容の変更を余儀なくされての発言だったのだろう。
有名人特権で一般人の6倍以上の兵役免除率に
BTSの勢いを持ってしても兵役免除を勝ち取ることは難しかった。
一般人の有名人特権に対する怒りと妬み、その念の強さを思い知らされる。過去にも「兵役逃れ」を画策して国民の反感をかった有名人は多い。
たとえば、「冬のソナタ」の主演俳優ペ・ヨンジュンは、視力不足を理由に兵役検査で不合格判定となっている。この時も猛烈は批判が巻き起こる。
一般の兵役免除率は5%程度だが、有名人や富裕層の子弟の兵役免除率が30%以上にもなるという。「特権階級に配慮している」と疑惑の目が向けられた。
また、90年代後半に人気絶頂だった歌手のユ・スンジュンは、米国籍を取得して兵役を回避した。
これにも韓国民は激怒。国民の反発を無視できず、韓国政府は、彼の韓国入国を拒否。以来、約20年間も故郷の土を踏むことができずにいる。
絶頂期に活動休止は韓国芸能人の宿命か?
兵役に就けば2年近くも芸能活動休止に追い込まれる。
この空白は人気商売には痛い。兵役逃れを画策するのはわからなくもない。が、対策をひとつ間違うと、芸能人生命を断たれてしまう。
それほど韓国社会で兵役の義務とは、取り扱いに細心の注意を払わねばならない厄介な問題だ。
徴兵制度のない日本で暮らしていると、そこがよく理解できないのだが。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。
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