慰安婦像撤去を求める「慰安婦詐欺清算連帯」
慰安婦像撤去を求める「慰安婦詐欺清算連帯」
韓国の保守系市民団体「慰安婦詐欺清算連帯」のメンバーら4人が6月26日、ドイツの首都ベルリン・ミッテ区にある「慰安婦像」の撤去を求め、街頭集会を行った。
これに対し、韓国メディア、政界はともに批判的で問題解決の兆しは見えない。
この街頭集会は、6月26日から28日にベルリンで開かれた主要7か国首脳会議(G7サミット)の日程に合わせたもの。G7には、日本の岸田文雄首相も参加した。
慰安婦像は2020年9月、ドイツの韓国系市民団体「コリア協議会」によってミッテ区の公用地に設置。台座には、「第2次大戦中、日本軍はアジア太平洋地域の無数の少女や女性を強制連行し、性奴隷にした」と記されている。
日本政府は、これが歴史的事実に反するとして、直ちに慰安婦像の撤去を求め、設置の翌月、ミッテ区は撤去命令を出した。
ところが、韓国系市民団体側の抗議により撤去命令が撤回され、今に至っているのである。
岸田首相は、今年4月の日独首脳会談の場でも、改めて慰安婦像の撤去を要請していた。
元慰安婦支援活動は「韓国民と世界をだました」
今回、街頭集会を行ったのは、慰安婦詐欺清算連帯という韓国の市民団体の3人。「オンマ(お母さん)部隊」 の朱玉順(チュ・オクスン)代表、落星台経済研究所の李宇衍(イ・ウヨン)研究員、韓国国史教科書研究所の金柄憲(キム・ビョンホン)所長である。また、ソウル在住日本人ジャーナリストの吉田賢司氏も同行していた。
慰安婦詐欺清算連帯は、日本大使館前で行われている水曜デモが今年の1月8日に30周年を迎えたことを契機に結成された。元慰安婦支援団体の活動の欺瞞(ぎまん)性を訴えるために、複数の保守系市民団体が共同で立ち上げたものだ。
同連帯は、1月26日に公開した声明書の中で、次のように述べた。
韓国政府が定義する「日本軍慰安婦被害者(日本により強制連行され性的虐待を受けた被害者)」は存在しない。“平和の少女像”(通称、慰安婦像)は、13~15歳の少女 が強制連行されたという誤ったイメージを広めている。慰安婦支援団体の正義記憶連帯(正義連)は、元慰安婦を利用し、韓国民と世界をだましてきた。
加えて、水曜デモの中止、慰安婦像の撤去、正義連の解体、女性家族省の廃止を求めている。
慰安婦詐欺清算連帯のメンバーは、それに先立ち、2020年6月より毎週水曜日に日本大使館前での集会申請を行って、水曜集会を妨害する実力行使を行っている。
慰安婦像と同じ彫刻家が徴用工像も手がける
メンバーの1人、落星台経済研究所の李宇衍研究員は、日本の植民地統治時代に関する韓国の一般的通念を真っ向から否定した『反日種族主義』の共同著者である。
反日種族主義は、韓国で10万部以上のベストセラーとなり、日本でも翻訳出版されている。
李研究員は、同書の中で徴用工問題を取り上げ、韓国で信じられている「強制動員、強制労働」の虚構性を指摘した。
また、慰安婦像と同じように韓国各地に建てられている「徴用工像」が日本人労働者の写真をもとにしているのではないかと疑問を提起し、像を作った彫刻家との間で係争中である。
徴用工像を作ったのはキム・ウンソン、キム・ソギョン夫妻。慰安婦像と同じ彫刻家である。
夫妻は、正義連の尹美香(ユン・ミヒャン)前代表と手を携えて、日本大使館前やベルリンなど、韓国内や海外に次々に慰安婦像を建て、巨額の利益を上げていることが知られている。
韓国メディアも政界も冷ややかな視線
今回、ベルリンで行われた慰安婦像撤去を求める街頭集会は、韓国のメディアにも取り上げられた。
しかし、その論調は冷ややかで、むしろ、慰安婦詐欺清算連帯の集会に対抗して向かい側で集会を開いた韓国系市民団体などの活動に焦点を当てたものも多かった。
韓国では、元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)が、2020年5月に正義連元代表の尹美香の不正行為を告発して以来、尹美香や元慰安婦支援団体に対する厳しい批判が行われるようになっている。
しかし、悪いのは尹美香個人であって、慰安婦被害者やその支援団体の「大義」は否定すべきではない、という認識が今も一般的である。
今回の集会についても、慰安婦団体擁護の立場に立つ野党、共に民主党はもちろんのこと、保守系与党、国民の力も批判している。
韓国の中央日報によれば、国民の力のイ・テギュ議員は6月28日、「ベルリンで集会を開いた人々が大韓民国の国民なのか、日本極右団体の会員なのか疑問を呈したい」「恥ずかしいことこの上ない」などと語ったそうだ。
日韓首脳がマドリードで初顔合わせも懸案は先送り
岸田首相はドイツでのG7の後、スペインのマドリードで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した。
同会議には、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領も招かれており、6月28日の夕食会では日韓首脳が初めて対面した。
しかし、この時は簡単なあいさつだけで、日韓の懸案についての本格的な議論は今後に持ち越された。
慰安婦問題、徴用工問題について、日本政府は一貫して「韓国がまず解決策を用意すべき」という立場を崩していないが、韓国内の厳しい世論を考えると、尹錫悦大統領も簡単に日本に譲歩するわけにはいかない。
日韓関係打開への道筋は、依然として不透明だ。
犬鍋 浩(いぬなべ ひろし)
1961年東京生まれ。1996年~2007年、韓国ソウルに居住。帰国後も市井のコリアンウォッチャーとして自身のブログで発信を続けている。
犬鍋のヨロマル漫談